天狗の山

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 青年はちょうどハンバーグを食べ終え、グラスに口をつけているところだった。 「迷いますよねーここのドリンクバーって。種類がそれなりにあるから、目移りしちゃうんですよ」  軽快に言ってから青年はグラスを持って立ち上がり、ドリンクバーに向かっていく。  自由な子だとは思うが、だからといって怒る気にはならなかった。不思議とそんなものかと、納得させられるような雰囲気が彼にはあるのかもしれない。  コーヒーに口をつけていると、青年が戻ってくる。  彼の手にはグラスに注がれたオレンジジュースとコーヒーのカップがあった。 「お待たせしました。これから長くなると思ったので」  やっと本題に入るのだと、私は背筋を伸ばした。 「僕のことはケーと呼んでください」 「けい?」 「アルファベットのKですよ」  私は思わず眉を顰めていた。本当にこの子は変わっている。まさしく変人だ。 「何故そんな……名字じゃあ駄目なのかな?」 「いいじゃないですか。ここではKと呼んでください」  引く様子のないKに、私は渋々ながら引き下がった。これ以上の議論は時間の無駄だ。 「僕はあなたの事を宮田さんとお呼びすれば良いですよね」  そこは普通に名字なのかと拍子抜けしつつ、私は頷く。 「では、宮田さん。お話願えますか? どうして、あの山に登りたいのかを」  興味津々といった目で、Kは私を見つめる。私は覚悟を決めるように、コーヒーを一口飲み干すと小さく息を吐いた。 「……信じて貰えないかもしれないが」  よくある前置きをした私は、過去の記憶を掘り起こしながら語り始めた。
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