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Kと共に電車に乗り、数駅先で降りた後、タクシーで向かった先は一軒の大きな平屋だった。
「どうぞ」
先に上がり込んだKに続いて、私も家の敷居を跨ぐ。
「狭いところですけど」というKだが、かなり室内はかなり広く、長い廊下の左手には池や松が植えられた綺麗な庭があった。かなりの地主というようにも思える。
すれ違いざまに出くわした妙齢女性に「お茶を」とKが声をかけると、彼女は頭を下げてすれ違っていく。
どうやら私はとんでもない所に足を踏み入れてしまったらしい。さっきまでのKに対する印象が大きく変わっていた。
案内された部屋に入ると、十畳ほどの和室に大きな仏壇が鎮座していた。
上にはずらりと白黒写真が見下ろすように飾られている。
「僕の歴代の先祖たちです」
後ろ手を組み自慢気な顔をするKに、私は左手から順番に眺めていった。
気付けばその中の一人に、私は目が離せなくなっていた。
まさしくそこにいたのは、天狗さんだったからだ。
「僕の高祖父です」
私が声を発する前に、Kがあっさり答えた。
「……君の」
「そうです。高祖父は貿易業もしながら、ここ一帯の地主でもあったんです。宮田さんがおっしゃっていた、あの山も」
だからあの場所に天狗さんがいたのかと、私の中で腑に落ちた。子供達を養う余裕などあの時代にはないはずだ。にも関わらず、四人もの子供の生活を支え、養子にまで出せたのは彼に資産や人脈があったからなのだろう。
「僕も高祖父の話は、少しだけしか聞いた事がなかったんです。変わり者で、天狗の面をつけては、山にばかり籠もってたとかって――だから変人だなーぐらいにしか僕も思わなかったんですけど、こうして宮田さんの話を聞いて、今では尊敬の目で見ちゃいます」
Kが天狗さんの遺影を見上げ、「まじで尊敬対象者」と、手を合わせた。
様々な感情を前に、私の口からは言葉を発せずにいた。
ただ黙って、天狗さんの威厳のある顔を見つめ続けていた。
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