山か、川か

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「山か? 川か?」  ピタリと締め切った勉強部屋のドア。その向こうから、問いかけられた。 「山よね? 山頂で、お母さんが作ったお弁当、一緒に美味しい美味しいって食べたじゃない」  歌うようなメゾソプラノの声。 「お父さんと川で魚釣りするの、好きだろ? 楽しいよなあ」  野太い諭すような声。  オレのこめかみに、首筋に、そして背中にも、すうーっと冷汗が流れ落ちた。 「山よね?」 「川だろ?」  こ、これは。  間違いない。離婚を前にした両親の、どっちについていくか。それを迫られている。 「これからもお母さんと山へ登ろうね」 「お父さんと川釣りに行く方がいいよなあ」  簡単なこと。どっちかを答えるだけでいい――  いや、どこが簡単なんだ。  中学生という保護者の必要な身分なら、最難関高校の入試問題より難問じゃないか。  
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