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第二章 再生、やり直し
昼川とは、同じバドミントン部という部活の縁で話をするようになった。だけど、ただ、それだけの関係だ。
同じ体育館内ですれ違えば挨拶をする。お互いに健闘を讃えあう時もあったけれど、とくに親しくしていたわけでも、親しくされていたわけでもない。友達、あるいは部活仲間という言葉がしっくり来るような、そんな関係だった。
昼川は特別美人なわけでも、スタイルがすごくいいわけでもないけれど、誰にでも愛想が良くて話しやすいし、親しみやすい女の子だった。だから、きっと僕みたいな無口であまり人と関わらないような奴でも、彼女とは会話が出来たんだと思う。
あの頃は、そこに恋愛感情があったなんて、思いもしなかった。恋愛や女の子に興味がないわけじゃなかったけれど、彼女のいるやつを見て羨ましいとか、自分にも彼女がいたら……とは、思ったことがなかった。
単純に、面倒くさい。
それ一択な気がして、僕は恋愛から目を背けてきたんだ。
誰かを愛する。そんな行為自体が、良く分からなかったから。
* * *
目が覚めると、もうずいぶん前に見慣れた天井が視界に入った。部屋の一角を仕切って作られた空間の為、シーリングライトが部屋の真ん中よりも右側に寄ってあるのも、懐かしいと思える光景だった。
驚きながらも体を起こすと、重たく鈍い痛みが頭に響くから、両手でこめかみ辺りを支えた。
隙間の空いたカーテンからほんのり明るさが溢れる。
左側、勉強机の上に置かれたデジタル表示の時計になんとか視線を上げて見ると、時刻は六時五分だ。
「……どう言う、ことだ?」
痛む頭と混乱する思考。
机の上に揃えて並んでいる教科書や参考書、バドミントンの専用雑誌、好きなキャラクターのフィギュア。それらはみんな、懐かしいと感じさせる。何より、もう捨ててしまったはずの中学の頃のスクールカバンが机の横にかかっていることが、不思議でならない。
さっきから抑えているこめかみ、耳元の髪の毛が指に絡みついてくる。
しばらくツーブロックの刈り上げをしていたはずの僕には、こんな長いもみあげは中学、高校以来だ。
急いでカーテンを開けて、外を眺めた。
すぐ隣の松の木が邪魔でなかなか窓を開けることが出来ない立地。部屋のドアを開けて階段の下を見下ろすと、ふんわりと味噌のいい香りが舞い上がってくる。懐かしさに思わず、胸が苦しくなった。
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