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「ごちそうさま。すごく、おいしかった」
心の底からそう思った。
あの頃は、思っていてもそれを言葉にすることはなかった。おじさんと、どう向き合うのが正しいのか、とても悩んでいたような気がする。
おじさんが何を思っているのか、僕の存在に怒っているんじゃないか、不満があるんじゃないか、全てのことに対して、不安しかなかった。
だから、余計なことはなるべく言わないようにしよう。そう思っていた。
でも、政光に「ラーメンが美味かった」と正面切って言えたことと、なんとなく似ているような気がする。
あいつは素直なやつだから、すぐに嬉しそうに笑ってくれたけど、おじさんは違うのかもしれない。
今思えば、食事の間の会話もほとんど覚えていない。と言うよりも、なかった気がする。
まだ食べている途中だったおじさんが、動きを止めてまた僕の方を見て唖然としている。
やはり、気に触ることを言ってしまったのだろうか。この歳になっても、やはり不安は不安だ。
「じゃ……じゃあ、行ってくるね」
場の空気に耐えきれなくなって席を立つと、食器をおじさんのすぐ後ろにある流しに持って行った僕に、ボソリとおじさんが言った。
「夕飯は生姜焼きだ。佑衣斗好きだろ、キャベツもたくさん千切りしとくからな」
驚いて振り返って見れば、おじさんが笑っていた。
「うん! 楽しみにしてる!」
だからだ、素直に僕も笑えた。
自分の笑顔なんて、どんななのか分からないけれど、初めて見たおじさんの笑顔は、いつもの怖い顔とは別の人じゃないかと思うくらいに優しく見えた。
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