第二章 再生、やり直し

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 体育館の中で執り行われる離任式に形だけ参加して、窓の外の青い空を眺めていた。ふと、視線を感じた気がして、横を見る。  数列先に並んでいた昼川と、目が合った。と、思ったら、慌てて逸らされてしまう。  そっか、中学最後は昼川とは別のクラスだったな。だから、さっきは教室に姿がなかったんだ。  一瞬だけ合った瞳は、なんだか泣きそうだった。離れてしまうのが寂しい先生でもいるのか。なんて、また、ぼうっとして空を見上げた瞬間、思い出す。  卒業式の日、僕は昼川の呼び出しに行かなかったんじゃなくて、行けなかったんだ。  何故かあの日は、やたらと知らない後輩や同級生が周りに何人も集まってくれて、今までこんなふうに囲まれて別れを惜しまれるなんてことがなかったからと、戸惑う気持ちと嬉しさとが入り混じって、よく、分からなくなっていた。  気が付いたらあっという間に時間が過ぎていて、先生たちに「別れがたいのは分かるけど、そろそろ帰りなさい」と促されて帰ったような気がする。  僕は、昼川からの呼び出しを、あの時完全に忘れてしまっていたんだ。  離任式の今日だって、全くそんなこと忘れて、今みたいにぼうっとして参加していたような気がする。  昼川の気持ちに気が付かなかったのは、完全に、僕のせいだ。 *  離任式が終わって帰る前に、昼川のクラスに向かった。彼女がまだ帰っていないことを祈りながら。  まばらになってしまった教室内。その中に、ふんわりと和む優しい笑顔を見つける。途端に、安心してしまって感情が込み上げてくるのを感じた。もう、僕の目には昼川の姿しか、映っていなかった。 「昼川、ちょっといい?」  声が震えてしまったかもしれない。僕と昼川が両想いなことは確定している。緊張とか、不安とかよりも、この気持ちを伝えることが出来る嬉しさが増していくように、鼓動が速くなる。  そばにいた数人の女子達から「きゃあ」と悲鳴のような声がいくつも上がった。  昼川を見れば、困惑したように眉を下げ、恥ずかしそうに俯いてしまう。  動けなくなってしまった彼女に、僕は構うことなく教室の中に進んで行って、目の前に立った。  昼川って、こんなに小さかったかな?  俯いて震えるような姿の彼女は、なんだか小動物みたいに可愛くて、包み込んであげたくなる。だけど、それはさすがにみんなの前では出来ないから、そっと姿勢を低くして顔を覗き込んでみた。  目が合った瞬間に、真っ赤になっていく顔がかわいいと思った。 「卒業式の時はごめんね、もし勘違いじゃなければ、今言ってもいい?」 「……え?」  戸惑うように顔を上げた昼川は、今にも溢れそうなくらいに目に涙を溜めている。  あの日、僕が昼川のところへ行かなかったから、きっと、昼川は僕にフラれたと思ってしまっているのかもしれない。一時でも、そんな悲しい思いをさせてしまったことが、申し訳ない。  だから、すぐにでも気持ちを伝えたくて。今からでも、昼川と一緒にいられる時間を過ごせるのなら、僕はもう一度、君と恋がしたい。 「昼川のことが好きだ。付き合ってほしい」  真っ直ぐに、周りがなんと言おうと、誰が居ようと、構わない。この気持ちを伝えるために、きっと僕はここに戻ってきたんだから。
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