第一章 再会、君の想い

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「そのままアートインにおろしてもらって良いよ。お疲れのとこ運転させてすまないな、ありがとう」 「なんだよ、飯食っていけよ。何も食べてないんだろ?」 「いや、来る時の新幹線で弁当食べたから」 「まじかー、じゃあ明日昼前にでもラーメン食いに来いよ。集まりは夕方からだから早めに昼食べればさ。俺の自慢のスープを味わってもらいたい」  車をアートイン前に横付けしてハザードを付けると、政光は熱意のこもった声で誘うから、頷くしかない。  リュックから土産用に東京駅構内でいくつか買ってきた一つを取り出して、政光に渡した。 「数足りないかもしれないけど、食べて。送ってくれてありがとう」 「お! これ子供たち食い付くな! ありがとう。じゃあまた明日な」 「うん、また」  車から降りて手を振る。  ウインカーが右に点滅して曲がると、一気に静かになった。店舗が多く、昔から商店街だったこの場所も、街灯の数は多くても二十時を過ぎるとやっている店はほとんどない。車も通らないし、歩いている人なんて一人も見えない。遠く、うっすら灯りが見えるのは、スナックか飲み屋だろう。  突然、ヒヤリと鼻先に冷たさを感じた。  見上げてみれば、真っ黒な空から白い雪の粒が舞い落ちてくる。ブルッと身震いをして、両手で腕を摩ると、足元に気をつけながらホテルの中へ入った。  部屋に案内されて、ようやく落ち着ける気がした。政光とは仲はいいけれど、幼なじみという間柄なだけだ。家が近くて学校も小中高と一緒だった縁で、今でも会えばこうしてすぐに打ち解けられる。他に連絡を取れる同級生なんていないし、ありがたい存在だ。  結婚して家業を継いで、子供も二人もいる。幸せってああ言うのを言うんだろうな。なんて、少しだけ卑屈になってしまった。  別に、幸せになりたいわけじゃない。  不幸なわけでもないし、ただ、無意味な毎日が無駄だと誰かに笑われる日が来るんじゃないかと、勝手に怯えているだけだ。  別に、誰にどう思われようと勝手だけど。それでも、やっぱり一緒に笑い合える存在って、嬉しいもんなのかもしれない。  駅の待合室で会ってから、ここに辿り着くまでの間、政光が笑顔で楽しそうに話す姿は、心の中がじんわりと暖かくなるような気がした。寂しさが少しずつ埋まっていくような、そんな感覚がした。  今夜はよく眠れそうだ。  シャワーを浴びてベッドに潜り込むと、知らないうちに眠りについていた。
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