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「懐かしいだろ? ほとんど変わってねーからな」
「ほんとだな」
とくにこれと言って思い出すこともないけれど、懐かしさは感じる。
いつも食べていた五目ラーメンを注文して待っていると、厨房から運んできたのは女の人だった。
「お待たせしましたー! 五目ラーメンですー!」
政光同様に、勢いのある声に圧倒される。
「夜野先輩ですよねー! あたし時ヶ崎高校の後輩です」
「……え、そう、なんですね」
「夜野先輩相変わらずカッコいいですねー! あの頃も相当モテてたし」
「え? 僕が?」
「はい! 後輩からもめっちゃ人気者でしたよ。あ、すみません、熱いうちにぜひ、食べてください」
困惑する僕の顔に気が付いたのか、慌てて厨房に入って行ってしまった。
誰だ?
頭の中にはその言葉しか浮かばない。同級生すら分からないのに、後輩なんて覚えているはずもない。すぐに悩むのをやめて、目の前の五目ラーメンに箸を突っ込んだ。
黄金色のとろみがかったスープに、野菜が絡んでいる。底の方から細めのちぢれ麺を持ち上げてくると、真っ白い湯気が立ち上った。フーフーと冷ましてから、口に運ぶ。
熱々の餡と麺が、いつまでも冷めることなく喉を通っていった。
「……うまぁっ」
思わず溢れた言葉。それからは、無言で夢中になって食べた。ここへ来るまでに冷えてしまった体が、もう汗ばんでいる。途中でダウンコートを脱いで、本格的にスープまで飲み干して食べ終わった。
「わぁ、良い食べっぷりですね! こちら、お冷どうぞ」
空になったどんぶりを見て、先ほどラーメンを運んできてくれた女の人が、コップに入った冷たい水を差し出してくれた。
「美味しかったです」
「あ、ちょっと待ってくださいね! マサさーん!」
僕が感想を述べるとすぐに、慌てて女の人は厨房に向かって政光を呼ぶ。
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