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「おう、なんだ?」
「すみません、もう一度、マサさんに直接言ってあげてください」
小声で僕に向かって小さく頭を下げるから、政光に視線を向けて「めちゃくちゃ美味かった」と、素直な感想を告げた。
「おーっ! ありがとう! その言葉まじで嬉しい」
素直に喜ぶ政光に、僕も嬉しくなる。
「あ、こっちは俺の嫁さん。紹介が遅れてすまない」
「八重です。中学の時はバド部で先輩の追っかけやってました!」
「え?」
ニコニコの笑顔でそんなことを言われても、覚えていない。と、言うか、僕に追っかけとかいたのか?
「女子の間でけっこう人気あったみたいよ? 佑衣斗。俺も中学の頃は部活ばっかでそういうのよく分かんなかったけど」
「夜野先輩は、もうなんか、次元が違うっていうか、王子様っていうか、無闇に話しかけてはいけない遠くから見つめるだけで十分な存在だったんです」
「なにそれ、やべーな。はははっ」
過去の僕のことで盛り上がる二人だけど、なんの覚えもない話をされて、理解不能だ。
「佑衣斗って、けっきょく誰と付き合ってたんだっけ?」
「ミナミだよー! めっちゃ押しの強いあたしの同級生! 何でーってあの時めちゃくちゃ嫌だった! ……っは! す、すみませんっ」
「……いや。ああ、そう言えば確かに」
ミナミって子に告白されて、一時期付き合ったことがあった気がする。
結局、俺は昼川のことが忘れられなくて、ミナミとは上手くいかなかった。
色々、思い出すな。
別に、思い出したくなんてない過去なのに。忘れたままで良かった。
「すみません、夜野先輩……ベラベラとあたし……」
黙り込んでしまったからか、慌てる政光の奥さんに、僕も急いで首を振った。
「いいえ。もう昔のことだから」
苦笑いする僕を見て、それ以上その事について話すことはなかった。
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