第1話 親父に嫁を見つけると言われたんだが

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第1話 親父に嫁を見つけると言われたんだが

——2054年12月31日 大晦日 ——VRMMOFPS『シャドウマーセナリーズ』では、年間ファイナルランキングイベントが開催されていた ■ネオ・ドイツ シュバルツバルト    宇宙からの侵略者が来て、荒廃した地球が舞台であり宇宙人を排除しながらも土地などの利権争いで人類も争っているというデストピアな世界観の中でも有名な森林エリアではランキングバトルの上位者による激しい戦いが行われていた。 『わわわぁっ、危ないよぉー』    可愛い声を出す、ピンク髪で赤いマフラーを付けたミニスカートの女子高生が焦るような声とは裏腹に弾道すれすれで避けて、パンチラを画面に映す。 :今日はいちごパンツ! :スクショできたぜぇぇぇぇ! :くっそぉ、次こそは! :いや、アーカイブで見ろよw :それなw :バカだなぁ、キミたちは……はるまきちゃんのパンチラはリアタイでこそ価値があるんだよ。 :わかるまーん :わかるまーん  掲示板も大盛り上がりで、はるまきちゃんと呼ばれたピンク髪の女子高生の動向に注目していた。 『まずは、えいえいっ!』  軽快な声と共に、銃弾を撃ってきた敵の背後に、瞬時に回ってナイフで仕留めていく。  その動きは鮮やかとしか言いようがなかった。   :はるまきちゃんのサーチ&デストロイはヤバイw :さすまき! :さすまき! :Amazing!    日本語だけではなく、海外からもチャットが流れていく。   『さぁ、私を狙うわるいこはいねぇ~かぁ~』  はるまきちゃんが周囲を見回す隙だからけの動きを逃さないようにレアアイテムステルスマントで身を隠していた男達が茂みからはるまきちゃんを囲んだ状態で立ち上がって、一斉にアサルトライフルを撃つ。  マズルフラッシュが暗い森に光り、瞬く様は蛍のように見えなくもなかった。   ババババという音と共にはるまきちゃんが撃たれたかと思ったら、はるまきちゃんは身をかがめて斜線から外れる。  古いFPSではこうした動きはできなかっただろうが、VRになったことで、自在に体を動かしてゲームを遊べるようになった。  だが、それでも柔軟な動きや咄嗟(とっさ)の判断力はプレイヤースキルによるものが大きい。  画面のはるまきちゃんはVRアバターを自らの手足のように使っていた。 『ちょーっと、このままだとやりづらいんで、一気にいっちゃいまーす♪』  銃弾でフレンドリーファイアをさせたことで、戸惑いだす男たち。  それらに向けて体を起こしながら、はるまきちゃんはハンドガンでヘッドショットを綺麗に決めていった。 『ふぅー、つまらぬものを撃ってしまったよ♡』  銃口に唇が付くほど顔を近づけて息を吹きかけ、可愛くポーズを決める。  :かわゆす!  :KAWAII!  :はるまきたん、ハァハァ  :もう今年は思い残すことはない  :いや、あと数分で終わるしw  :それなw 『はるまきたん……やっと二人きりになれたね♡』 『ほんとうだ! あと3分で決着つけなくちゃね♪』  いつの間にか、二人になっていた。  片方はピンクの髪の女子高生のはるまきちゃん、もう一人はランキング2位ではるまきちゃんを追いかけているガチ課金勢の金髪優男ガンマンのジャック・キャバリア―だ。  この二人だけが立つ空間は森の中のはずが、荒野のような雰囲気が立っている。 :ドリームマッチ! :これ切り抜き候補だろ! :やれやれ、はるまきちゃん! :ジャックも負けるなー!  掲示板も盛り上がりも最大になり、その雰囲気を掴んだのか、二人が同時に動いた。  パァンと銃声が鳴り、倒れたのははるまきちゃんだった。 :嘘だ! ドンドコドーン! :MJD!? はるまきちゃん!    どうようがチャットに走るが、その中で気づいた人がいた。 :あれ、試合終わってなくね? 『ハッ!』  勝利を確信して、はるまききちゃんに近づいてきていたジャックの背後にはるまきちゃんは回り込んで首を斬る。  血飛沫の代わりにデータの残滓が飛び散ってジャックの姿が消えた。  ——WINNER はるまきちゃん! ——  ◇ ◇ ◇ 「ふぅ……これで年間トップだな」  HMDを外して、俺は一息つく。  このシャドマセを始めてから、初めての年越しだが今までにない充実感を得ていた。  仕事と食事と睡眠だけの生活だった俺の中にゲームが入ってきてまだ数か月である。  壁に掛けてある時計を見れば、23時50分であり、そろそろ家の居間に集まって、新年の挨拶をする時間だ。 「いくか」  家族にも内緒にしている地下室の一角の隠しゲームルームから俺は出て、家族の集まる居間に向かう。 ◇ ◇ ◇  今に向かうと、家族が集まっていた。  忍者であり、暗殺を主な仕事としている俺の父親であり、有名暗殺者”ヤタガラス”の先代でもある風間小十郎が俺が座るのを待っている。  俺が座布団に座るとちょうど0時になり、新年になった。 「あけましておめでとう。こうして皆と顔合わせができることをうれしく思う。ワシらは——」  その後は長々と親父のあいさつが続き、皆、眠いのを我慢しながら聞いている。  毎年変わらない、いつも通りの新年だ。 「——で、今年の抱負を語ろうと思う」  親父の最後の言葉を聞き逃さないよう、皆が体を伸ばして整える。 「この「はるまきちゃん」を晴臣の嫁として迎えるよう、探し出すのだ!」    一瞬で目の覚めることを言い始めた親父の言葉に俺は愕然とした。  精神を研ぎ澄ませることを修行し続けてた俺の心を揺さぶる一言である。  何故かと言えば、俺の名前は風間晴臣……シャドマセのトッププレイヤーはるまきちゃんの中の人なのだ。
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