続・応援している気持ちを届けたい

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 そろそろ応援している気持ちを届けようか、と思うも1歩も進めず躊躇する自分。  今夜は近くの居酒屋で2人で食事。 「侑太が言うの。たまには未頼君とデートしてきなって。大人みたいなこと言うのよ」 「おかげで桃菜と食事が出来る」  烏龍茶の入ったグラスを見つめながら桃菜が言う。 「中学の時に久しぶりに一緒に登校したの覚えてる? 」 「あぁ。部活違ったら本当に会わなくなって」  桃菜は合唱。俺は柔道。その日、歩いていた俺を呼び止めた桃菜。 「未頼おはよう」  他にも人がいて、俺は恥ずかしさが先に立ち、人差し指を唇にあててシーッのポーズをした。 「私、未頼が恥ずかしそうにしているのを見て、声が大きかったことに気づいた」 「俺は嬉しかったのに恥ずかしくて。ごめん」  桃菜は首を振って笑った。そして刺し身を小皿にとってくれた。 「陸上クラスマッチ覚えてる? 3年生の時」 「覚えてるよ、2年連続応援団だったし」  クラスの旗の前で応援。心の中で桃菜を応援。隣のクラスじゃなくて一緒のクラスだったら良かったのに、と思いながら。 「未頼の声が大きくて、私を応援してくれてるって勝手に思って頑張れたのよね。嬉しくてね。未頼が走っている時、心の中で応援していたの。ファイト未頼って」  お互い様だった訳か。良かった。桃菜に応援してもらって3位だった。  焼き鳥を食べながら沈黙。周囲の客の声やBGMがやけに大きく感じてしまっていた。 「高校生になったら殆ど会わなくて心配だった。そしたら的中して怪我しちゃったね」  大会中に足の故障。桃菜には黙っていたのに母親から聞いたらしくて。高2の6月だったか。何日か入院生活を送った。 「退院祝いに2人でケーキ食べた」  俺が言っただけで桃菜が笑いだした。俺は思い出す。何があったっけ。早く思い出せ。何だっけ。 「私の部屋でケーキとお菓子食べてたら」  食べてたら桃菜一家の愛犬が俺の背中に飛びついた。その時はケーキのイチゴの香を確認のため前傾姿勢だったのがいけなかった。コントのようにケーキに顔突っ込んだ。 「俺の背中にカラスケが飛びついてきて。久しぶりで嬉しそうに勢いつけて。で、ケーキに」 「そうそう、コントだったなあ」  こういう共通の話題があるのは本当に嬉しい。他の友達といるのも楽しい。でも桃菜と話していると何か違った楽しさや安らぎがある。 「もっと食べなよ。好きなの頼んで良いから」  桃菜がポテトを俺の口に2本近づけた。まるで鳥の雛になった感じ。 「何でこんなに気配り出来て面白くてドジで優しいのに、何で結婚出来ないのかなあ」  ドジはドジ。でも言われてショックだったけれど事実。 「心配してくれてるの俺の事」 「そりゃ心配だよ。良い人いないかな未頼に」 「いなくて良いの。桃菜、サワー追加するか」 「ううん、烏龍茶で良い。未頼は好きな人いるの? いたら教えてよ」  迷わず桃菜を指差した。笑い出した桃菜に言った。 「冗談だよ、ごめん」  手紙で言おうと思った。だから謝った。まだ冗談にしておきたい。 「だよねぇ、でも未頼が良くても私が神経やられて手が普通じゃないし、迷惑かけるからダメよ」  それでも良いと俺が言ったら? 守って支えるから家族にしてくれと言ったら? 桃菜はどんな答えを出すだろうと愛太はどんな答えを出すだろう。かなり怖い。  翌日の休憩時、自室で昨夜を思い出しながら便箋の一行目に、いつも通りボールペンの先を置く。 「まだ、届けなくても良いよな」  これだけ片思いをしていたら別にこのままでも、と思う。でも思いを届けたいと思った気持ちをしまって良いのか、と心の奥が問いかけてくる。  頭を抱えた。いったい俺はどうしたら良い? 工場で俺と働く姿と今のまま仕事を続ける姿の両方の姿を想像した。桃菜いま何してるんだろう。 【昨夜は思いがけず思い出話が出来て嬉しかった。俺たちにはもっと思い出がある。また会って話したい。好きな人がいるかってい訊かれて冗談にした事、本当に申し訳ない。でも小学生の時から現在も、俺はずっと桃菜を応援してきています。これは本当です。   フレーフレー桃菜 】  恥ずかしいけれど届いてほしい。好きと言いたい。でも応援していると書いた。それでも良い。封筒に入れ机の上に置く。    朝、侑太が届けてくれる手紙。昨夜の事をどう思っただろう。書いてあるだろうか。 「未頼、侑太が待ってる」  親父が教えてくれた。つい仕事をしていて時間を見ていなかった。挨拶を互いにしたら侑太がニヤニヤ。 「母さんに好きな人いるのって訊かれて冗談にしたんだろ。でも嬉しそうだったよ。あんな笑顔見た事なかった。旦那のせいで笑う事も忘れていたみたいだったし」  本当は冗談じゃなくて。まっいいか。桃菜が笑顔だったのなら。夕方、侑太に渡す手紙を事務所の引き出しにしまった。  昼に桃菜からの手紙を読んだ。 【何年ぶりかで笑った夜でした。高校卒業からの共通の思い出ってないもんね。狂った歯車を戻せず離婚して。でも未頼が昔のままで会って話してくれて。冗談でも好きと言ってくれて。私、嬉しくて素で笑いました。ありがとう。また行きたいです】   夜、スマホにメール。桃菜からだった。笑った。『フレーフレー未頼』と、キャラクターが満面の笑みを浮かべて扇子を振っている絵文字。  決めた。届けよう。チャンスを窺っていたら、次の週末に侑太と愛太から買い物の誘いを受けた。 「未頼君の車スゲー」  愛太のテンションが高い。桃菜が助手席に来る。 「カッコ良い車だね」  侑太も言う。  家から30分くらいの商業施設へ。侑太と愛太の指定の場所。 「別行動するから電話出てよ」  侑太がスマホを見せて愛太とエスカレーターに乗った。 「何か飲む? 買い物それからでも良いかな」  頷いた桃菜とカフェに入った。雰囲気の良い場所だった。BGMはジャズ系。 「未頼、あのね」  ストローを口にしたまま止まる。 「ごめん桃菜、俺の話が先で良いかな」  ちょっと慌てた口調になって桃菜に笑われた。頷いた事を確認して俺は言った。 「行く行くは3人の家族に入れてもらいたいと思っています。どうでしょうか」  桃菜が黙ってじっと俺を見つめる。  「さっき私が言おうとしたのは応援してくれてありがとうって事。私たち応援し合う仲だし嬉しいの。けれど今は前向きに検討しますって答えで良い? 色々と考えるから」 「ごめん、応援もっと近くでしたくて。本当にごめん」 「そうね、、そばにいてお互いに応援したいよね」  慌てずに1歩、1歩、進んで行こう。お互いを応援しながら。           (了)  
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