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「………娘に恋愛感情を抱く気持ちは分かる。カティアは可愛い上に勉強も礼儀作法も非の打ち所がない。貴族令嬢の憧れの的だ。それにしても……十二回、私からもカティアからも断りを入れられていると言うのに、貴方のメンタルはどうなっているのか」
「ただ彼女を想っているだけですよ。空虚だった私の心を埋めてくれたのは彼女ですから」
カティアが身に覚えのないことで断罪されることとなる卒業パーティーの前日。夜遅くに王国よりはるかに大きい隣国の皇太子、アルバートはローデント公爵邸を訪れていた。その理由はただ一つ、カティアが婚約者に断罪されることになるとの情報を得たから。
ここ数年、留学期間を終えて自国に帰っても度々こうしてこっそり公爵邸に訪れるようになったアルバート。そのことをカティアは知らない。カティアに会っているわけではないのなら何をしに来ているのか。それはアルバートの国とは反対側に位置するさらに大きな国、大帝国との取引のためだ。
最初は婚約の申し込みをしに来ていたが、文通をするようになってからはやめた。それでもこっそりカティアの様子を伺いに来る。どうせ来るのならお互いにとって利益の出ることをしようと決め、公爵は大帝国皇帝に代わって友好関係を築いていたのだ。そうしている内に親しくなってしまい、その結果本当に何の用もなくただ公爵と話してカティアの様子を見て帰る、と言う行動を繰り返していた。
皇太子は暇なのかと思われるかもしれないが、しっかり仕事は終わらせて来ているので父である皇帝も口を出してこない。国益とは別に、カティアに嫁いできてほしいと思っているのもあるのだろう。アルバートを変えたのはカティアだから。
カティアは自分がアルバートを変えたということを知らないだろうが、以前のアルバートの二つ名は「氷の皇太子」だ。完璧すぎるが故に何に対しても興味を持たなかったアルバートは無口無表情、家族にも臣下にもそれは変わらず皇太子としてそれは問題があると皇帝は頭を抱えていた。そんな皇太子を温厚な性格へと変えたカティアは皇帝にとっての救世主でもある。
ちなみにアルバートが変わろうと思ったのは、少しでもカティアに好かれるため。それだけのことだった。
「それより公爵。公爵が出した条件は達成しましたのでもう一度婚約を申し込んでも構いませんよね?」
「ああ。だがカティアが受け入れるかどうかは別だ。あの子が断るなら無理強いはするな」
「それは言うまでもなく。嫌がる彼女と結婚したいとも思いませんので。好きな女性と結婚できるのにそれが政略となっては虚しいだけです」
この会話も、カティアが婚約破棄されることを知っているのも二人だけの秘密だ。明日の断罪の場では知らなかったふりをする。そう約束し、アルバートは滞在している王城へと帰って行った。
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