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食べ終え、片付けを終わらせた後、本題に入った。
「で、“ルーシュ・ヴェルトール”のことですが……」
そう改まった茜雫を見て、シエルもクロムエルも気を引き締めるように整えた。
どうしてクロムエルも引き締めたのかは分からなかったが、それは置いておこう。
それを見て確認を取った茜雫はそのまま続ける。
「実のところ、この異世界大社が創設されてから数千年……ずっとアヴィラさんとネウロさんが主導で探索を続けているものの、未だ発見されていないのが現状です。今いないのも、手掛かり探しの旅に出てる状態ですね」
「……そうか」
薄々分かっていたものの、こうして言われると刺さるものがあるんだな。
思わず神妙な顔になってしまったものの、言葉の続きを聞く。
「ここをゴーインに創らせた【始祖】様にもきちんとお話を聞いたものの、張本人でもない彼でも分からずじまい……でも犯人の心当たりはあった。
封印したのも遠くへ飛ばしたのもノータッチで別の神だったんですけど、それを【始祖】様から喋らせることができたのはつい最近なんです。よほどあなたが怖くて怖くて仕方がなかったんでしょうね」
茜雫の言葉に、【始祖】に対して僅かながら怒りを覚えつつ、ふと疑問がよぎった。
最近? 最近まで喋らなかった頑固者が、どうして今になって?
そう考えていると、茜雫はこんな事を言った。
「アザトゥがしばいたから喋ったんです」
「ん?」
「へ」
しばいた? 【始祖】を? あのアザトゥが⁇
二人して、一周回ってきょとんとしていると、茜雫は当然のように言う。
「いや私でもいろいろお願いしてたんですけどなっかなか喋らなかったんすよ~……どうしたものかなーってここの庭先でぼやいていたら、ふわっと真っ白な天使っぽい超イケメン男性が空から降り立ったんだ~」
それがアザトゥだったんだけどね。
そう言ってニヤニヤ笑う茜雫もやはり“女の子”ということ。イケメンには弱い。実際にシエルに対しても“尊い”と感じているほどである。
どんな出会い方だ……、と。シエルはクロムエルと一緒に唖然としていると、唐突に別の声がした。
「ちょうど私が軟禁生活に嫌気がさして、家出していた時の話だな。それで話を聞いて、私からも説得するようにしたんだ」
それも、シエルとそっくりそのままの声が。
「は?」
「え? シエル?」
その声にシエルは思わず声を上げ、クロムエルは一瞬シエルの声だと思い、声をかける。
しかし、当のシエルは目の前の光景を見て唖然としていて、彼でない事を物語っていた。
それに釣られて、クロムエルもその先を見る。
「へ? シエルの、双子の兄弟⁇」
「違うよ。同族ではない」
「え……本物?」
それを見て、クロムエルは思わずそう言ってしまい。
いつの間にかこの部屋にいた――茜雫の隣で座っているシエルにそっくりな白い男性、もといアザトゥがクロムエルのその言葉をシレッと否定した。
シエルはそれを見て、苦虫を噛んだような苦い顔をしてアザトゥを見る。彼とはあの戦争以来、顔を合わせるのはこれが初めてだ。いろいろと気まずいのは確かである。
……というより、軟禁ってどういうこと?
「で、茜雫。壊れてた結界直しておいたよ。話の続きを」
「はーい、サンキュー」
「いや、え⁉︎ 続けんの⁉︎ ってか軽っ‼︎」
「これから詳しく話すからお口チャック」
「う、うい」
一旦、クロムエルを黙らせた茜雫は、話を続け――
――ようとしたが。
カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ‼︎‼︎‼︎
カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ‼︎‼︎‼︎
カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ‼︎‼︎‼︎
話をぶった斬るように、直ったばかりの警報が鳴った。
「あばああああああああああああああああああああ‼︎⁉︎⁇」
「ふんぎゃああああああああああああああああああ‼︎⁉︎⁇」
茜雫とクロムエルは思わず絶叫し。
「うわぁ……これは、煩いな……」
「だな。流石に耳が痛い……」
シエルとアザトゥは両耳を押さえながら、至極冷静に状況を把握していた。
しかし。
この音は可笑しかった。
「う、うげぇ……頭、痛い……」
「俺も……これ、きっつ……」
絶叫してしまっていたクロムエルと茜雫はその言葉を最後に、そのまま気絶してしまった。
それだけではなく、この本部周辺に居座っていた『エデン』の住民たちも逃げるか、もしくは気絶するかして、周囲からいなくなっていた。
「これは……」
「ああ、細工されてる」
まるでその細工が意味を成さないように、シエルとアザトゥは魔法で耳の周りをコーティングして、大元の警報器の元へ向かう。それは本部の、玄関に繋がる廊下の壁にかかっている。
その警報器自体は一般に使われているものとは大差なく、ごくごく普通の警報器だった。その中身も変わっていないようで、シエルがスイッチの部分をカチッと押し直せば、この大音量の音は止まった。
しかし、問題なのは。
「……」
スイッチを押した手を確認するように見る。
指先に感じた、僅かな違和感。
自分でも触れてみないと分からないあたり、用意周到に、バレないように細工していたのかが分かる。
シエルがそう考えていると、横で見ていたアザトゥが確信を得たように言う。
「何かあったね。君が触れた途端、跡形もなく消し飛んだけど」
「ああ、これは一種の魔法だ。それも呪いに近いもの」
そう、この警報器そのものに魔法がかけられていた、ということだった。
呪詛系統の魔法であり、この爆音を長時間聞いてしまったら脳が破裂するタチの悪い魔法だ。
短時間でも気絶してしまって、しばらくは目を覚さない。
「……これは、私が来ることを想定しての魔法なら、直接叩いた方がいいか?」
ぽっつりと、そう言う。
挑戦か、他の目的か。
何はともあれ、こうした形で襲撃したと考えると、一刻も早く相手を仕留めた方がいいだろう。
それに対し、アザトゥはシエルを諌めるように言った。
「待て。確かにこの魔法は厄介だったが、一人では行かせないよ」
「何?」
怪訝な顔で見ると、アザトゥはにっこり笑って言った。
「この状況で、一緒に行かないわけには行かないでしょうに。私も行くよ」
やっぱりな。
分かっていたことだが、こうもはっきり言われると、かなり、嫌な気になる。
それは顔に思いっきり出ていたようで、アザトゥは苦笑いした。
「なんだよ~。そんな嫌な顔しないでくれよ~」
なんて言って、馴れ馴れしく肩を組まれる。側から見れば、紳士に絡む外国人のようである。
……コイツ、初めて会った時はこんな調子では無かったはずなのに……頭でも打ったか、軟禁生活のせいでおかしくなったか。
冷めた目でアザトゥを見ながら、これははっきり言わなければならないと思い、言った。
「むしろ、なんで卿と一緒に行かなければいけないんだ。悪魔と神が馴れ合うなんざあり得ないだろう」
元々、殺し合ってた者同士だぞ。
一方的に癇癪を起こされた卿らを恨み、皆殺しにしようとした奴に、お前はどうしてそんなに構ってくるんだ。
そう思いっきり睨むと、アザトゥは苦笑いはやめ、今度は笑った。
「くっ、ふふふ」
「何がおかしい?」
何笑っているんだ。気色悪い。
そう思って見ていると、アザトゥはニッコニコのままだった。
「だって、わざわざそんな事を言う悪魔はいないよ。大抵向こうの方から絡んでくるか、関心すら向けない。特有の悪意がない分、やっぱり君は優しいよ」
なんて言って。
「……はぁ」
まさかこんなに好かれているなんて、思ってもみなかった。どうしてこんなに好かれるんだか。
そんなことを考えながら、シエルはアザトゥと共に元凶の元へ向かった。
……といっても、心当たりの元へ向かうだけである。
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