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「うわ……すごい……」
くぐり抜けた先で空を見上げて、青年は吐息を漏らした。
木々のない開けた小山の頂上、頭上を覆う満天の星空。麓からは黒く見えるそれは、ここでは銀色に輝いている。その中に時に赤く、時に青く、あちらは金、こちらは銅と、鮮やかにきらめく星々。そして真上にこうこうと輝く白い月。
遠く、ずっと遠くに見える街の小さな明かりは、あたたかく、懐かしい。
風が吹き、足元の草をさぁっと揺らす。それ以外に何の音もしない、銀色の世界。
「これは、すごいなんてもんじゃないな」
上を見たまま、青年は立ち尽くしていた。
ね、とココロは笑う。
「ゴールだよ。この街の宝物だよ」
すると青年は、あれ、と初めて顔を空から離す。
「モンスターは……」
「うん。ここの言葉では『星の山』って名前だよ。なんだか外国では色々混ざって、『Mont Star』って呼ばれてるみたいだよね」
呑み込まれちゃうくらいの星空でしょ。にこにこ自慢げな屈託のない笑顔に、青年は脱力して草地に寝転がった。
「なんだそりゃあ!」
その顔に店での暗さはなく、眼に映る星に笑みが溢れていた。
「さあ、じゃあ飲もうよ」
背負った鞄を降ろし、ココロは中から母に持たされた荷物を取り出した。きらきら光るガラスのコップと星空を映すガラスの瓶。
瓶の中でゆらゆら揺れるのは、星明かりをたっぷり浴びて育った果物のジュース。この街で、秋にしかできない今年の新物。
コップひとつを青年に差し出し、瓶の栓をキュポンと抜く。
「お誕生日でしょう。新しい一年、お祝いしなきゃ」
乾杯、と笑う二人の声は、無数の光が瞬く空へ、高く、高く吸い込まれていった。
Fin.
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