2、馬頭、お前はお呼びでない

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「ミサト!」  母の泣きじゃくる声と父の潤んだ声で目を覚ました。騒々しい、というのが最初の感想だった。 「分かるか? ここは病院だ」 「目を覚ましてくれた……神さま、ありがとうございます……」  お母さん、生き返らせてくれたのは閻魔様なんだよ、と心の中でツッコミながらほほ笑んだ。 「おはよう……?」 「うん、おはよう」  ゆっくりと視界がひらけていく。ここは病院の個室だった。目を覚ました私を、すぐに医師が診てくれた。 「脳震盪がありますが、他はかすり傷程度ですね。いやあ、打ち所が悪ければ死んでましたよ。いやいや、今だから言えますが、一時は危なかったんですよ?」  そりゃ、地獄にいましたし……。  私はヘラリと笑いながら「そうですか」とつぶやいた。  安心した両親は、一度家に帰ることになった。聞けば現在、夜の九時すぎ。両親は明日の仕事を休むと言い、私の入院に必要なものを取りに帰宅するのだと言った。 「もどるのは明日で良いよ」  看護師と私がそう言うと、じゃあ、と両親は私の頭を優しくなでて帰っていった。それからすぐに消灯時間となり、私は個室で一人、横になっていた。 「よ、元気?」  暗闇から現れたのは馬頭だった。人目がないと分かっているからか、馬面だった。 「これを閻魔様から預かってきた」  そう言って渡されたのは、一枚のカードだった。クレジットカードのような固さだけど、表にはデジタル表示が見えた。 「これは?」 「地獄ポイントだ」 「……マイナス一万って言うのは?」 「地獄ポイント、通称借金ポイントだ。それをプラスにするのがお前の仕事。そしてお前の邪魔をするのが俺の仕事だ」  私はカードをまじまじを見ていた。 「ま、天国に本気で行きたかったら徳を積むことだな。まずは早起きからか? 早起きは三文の徳っていうもんな」 「ポイントで言うと?」 「三ポイント」  一年は三百六十五日、かけることの三ポイント。つまり千九十五ポイント。一万ポイントには程遠い。しかし、ちりも積もればなんとやら。 「明日からがんばろう」 「そういうこった」  馬頭はニヤッと笑って私を見下ろす。 「俺サマから逃げられると思うなよ」 「分かってるよ、もう」  私はふとんを目深にかぶった。  ああ、疲れた。  明日は早起きしなきゃ――ところで早起きって何時だろう?  そんなことを思っているうちに私はうつらうつらと眠りに入った。
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