1、鬼が不細工だって誰が言った?

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 校内では部活の終了時刻を知らせるチャイムが鳴り始めた。私はそんな遅くまでアカネといたのかと頭の隅で思いながら、重い足取りで教室を後にした。  階段を降りていると、下の階から笑い声が聞こえてきた。数人の男子の笑い声。次の階には第二音楽室がある――吹奏楽部の部室。どうやら部活終わりの吹奏楽部の男子たちらしいと勘付いた。 (ミナトくんがいるかも……遭遇したくないなあ)  私は思わず一歩二歩後ずさりしながら階段を上って階上にもどった。そしてしばらく耳をすませていたら――。 「ミナトも罪なヤツだよな」 「ホントホント。指原と鈴木、これでケンカとかするんじゃね?」  二人の男子からからかわれるようにミナトくんは話しかけられている。指原はアカネの名字、鈴木は私の名字だ。私たちのことを話しているんだ。 「良いじゃん、その方がおもしろい」  冷たい言葉――ミナトくんのセリフだとは思えなかったけれど、特徴的な「へっへへ」という笑い声が続いて、ミナトくんの言葉だったのだとはっきりした。  私は気づかれないようしずかに彼らのあとを追った。 「ミナト、本当は別校の子と付き合ってるのに。吹部の中じゃ有名なくらいなのに、なんでそう言わなかったんだ?」  ミナトくんはまた「へっへへ」と笑った。 「指原と鈴木って、なんか気持ち悪いじゃん? 指原はオタクっぽいしなんか粘着っぽそうで、鈴木は鈴木でなんか、幽霊みたいな? 存在感はないし、ヘラヘラしてて気持ち悪いし。そんな二人がベタベタくっついて仲良しこよし……吐き気がする」  私は階段脇でうずくまった。足の指先が冷えていく感覚をおぼえた。 (やばい、しんどい。どうしてこうなったんだろう)  そう心の中でつぶやく私の顔は、両手の中でニヤリと笑っていた。
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