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「あらためて、言おう。鈴木ミサト。お前の厄は払ってやった。礼として俺の元で働け。具体的には牛頭として地獄で働け」
「イヤだ! 地獄になんて行きたくない! 地獄で働くなんて、もってのほかです!」
「威勢がいいな。よし、気に入った! お前、俺サマの相棒として地獄で齷齪はたらきやがれ!」
私は無視した。男を避けるように歩きだした。しかし馬頭はあきらめが悪く私の横を付いてきた。
「ちょっと、誰かに見られたらどうするんですか!」
「だれもいないじゃないか」
「今にだれかに見られます! そうしたらどうです、私が馬面の男と歩いているなんてウワサが出回ってしまいます。こわっ!」
「ああん? ならこうすればいいか?」
馬頭はパーカーのフードをグッとあご下まで引っ張った。
「うわ、最悪な変質し――」
そして馬頭はフードの紐を解いて顔を出した。そこに馬面はもうなかった。
「ははは、人間に擬態できるんだぜ? なにせ俺サマは悪鬼サマだからな!」
馬面のときと同じ栗色の髪。肩まで伸びた髪をかき分けて現れた目は垂れがちで、大きな瞳は青々とかがやいている。
普通に、かっこいい。
「いや、それは詐欺でしょ」
「はあ? この顔に文句があんのか?」
「顔に文句があるんじゃないです、さっきの馬面からこんな変身を遂げるのがおかしいって言ってるんです!」
「イケメンだろぉ?」
「ぐぬぬ、認めたくない」
「馬鹿だな、それはつまり認めたようなものだろ」
馬頭は「カカッ!」と豪快に笑った。
「さあ、ミサト。もう一度さそってやろう、俺様の相棒として地獄で齷齪と働きやがれ!」
私はジッと馬頭の顔を見る。正直、ミナトくんも通っている中学ではトップスリーのイケメンだったけど(だから好かれていると言われたときはちょっとうれしかった気持ちもあったのだけど)、それに比べたら月とスッポン、もちろんミナトくんがスッポンで馬頭が月になってしまうのだが、しかしそれを認めるのもましてや地獄に行って働くなんて非現実的かつ地獄的な生活も受け入れられるものじゃない。
「イヤです」
「バイトでも良いぞ? 賃金は弾む」
「うっ……って、中学生でバイトは禁止です」
「地獄に中学生なんて縛りはないぞ? もちろん、学校もない」
「それは幸せですね。でも私は中学生って立場、結構気に入っているんで」
「仕方ない、三食昼寝を付けてやるぞ」
「地獄で昼寝ができるんですか?」
「ああ。だが仕事は徹夜だ」
「それじゃあ意味ないじゃん!」
私は歩きだして馬頭から距離を取ろうとした。しかし大の大人、しかもモデルのようにスタイルも良ければ足も長い馬頭を相手に、距離は一瞬で詰められてしまった。
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