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「そもそも、なんで新しい相棒を探すんですか。今までの人じゃダメなんですか?」
馬頭は深くため息をつきながら「ああ、ダメなんだ」と答えた。
「先代の牛頭は、そりゃ仕事ができるやつで。それこそ俺を馬車馬の如く働かせておきながら、成果はぜんぶ持っていきやがって。そしたら秋の人事異動で閻魔様に直々のスカウト。ありえるか?」
地獄でも人事異動とかあるのか、と思った。そもそもそういう話がアリエナイ。
「その点、お前は恨まれ体質でいずれ地獄行き。言われたことしかできなさそうだし、文句も言わなそうだしな。何より馬に憑かれるようなやつは、将来も期待できない。なら、地獄の獄卒として――そして俺の部下として働かせようと思ったんだ」
「相棒じゃなくて部下?」
「あ、ヤベ。本音が出た」
「最悪!」
「最悪だ? 悪鬼の俺サマには褒め言葉だぜ」
目の前の長い横断歩道の信号が赤になってしまった。ここの信号は長いというのに……。私は歯を食いしばりながら馬頭を見上げた。
「馬頭! 悪鬼! お前なんか、お呼びじゃない! とっとと地獄に帰れ! 落ちろ!」
「イヤだね。お前こそ地獄に落ちろ、俺サマの元で働け!」
「イヤだ!」
突然。私の視界はまぶしい光におおいつくされた。目の前には目を見開くイケメンの馬頭の顔。
そして高く響くトラックのクラクション音――。
「ミサト!」
馬頭のうでがこちらに伸びる。私は相変わらず危険を感じながらもヘラリと笑っていた――。
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