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温かいお茶で少し落ちついた悟は、基のただならない様子や、神社で出会った露天商の話をした。
自分と生き写しのような姿を思い浮かべるだけで苦しくなる。でもそれは、家族も同様だったらしい。
父親と妹は顔を歪め、母親が泣きだした。
悟は下を向き、歯を食いしばって耐えた。
「もしかして、もと君はわざと、さと兄とその人を会わせたのかも」
一番に衝撃から立ち直った茜が、冷静な意見を口にする。
その声に、悟は顔をあげた。
「そうかもしれない。迷わずあの店に向かったようだったし。あらかじめ知ってたのかも」
そして様変わりするほど苦しんでいたのだ。そう思うと、初めて目にした男の存在より基のことが心配でたまらない。
「だとしても、それが基にとって何の意味がある。その人物がどこの誰かも、俺たちは知らないんだ」
父親も会話に加わってきた。
あえて、男のことを見ず知らずの人間だと強調している。憶測のままでは基の気持ちを推し量ることはできない。
しかし、言葉とは裏腹に父親の強面には苦しみが貼りついていた。
その瞬間、悟のなかで「自分は息子として大切に育ててもらったのだ」という事実がすとんと腑に落ちる。
さらに、基の存在がかけがえのないものだと考えているのが伝わった。
だから、皆が苦しいのだ。
悟は大きく息を吐いた。
「俺、基と話してみるよ。言いたくても言えないことを抱えてる気がする。きっと俺にしか言えないことだろうから」
「大丈夫なの?」
母親が縋るように悟を見る。悟がいま以上に傷つくのでは、と心配している目だ。
大人になった息子を、それでも案じてくれるのが肌をとおして沁みこんでくるようだ。
「うん、大丈夫だと思う。無理なときは今日みたいに逃げてくるよ。でも基が苦しんでるのは俺もつらいから、頑張ってみる」
「俺たちがいるのを忘れるな」
父親の言葉に、悟は力をこめて頷き返す。
でもこれは誰にも任せられないのだ。自分で決めて自分がやるしかない。
縮みあがりそうになる気持ちを、必死で鼓舞した。
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