本当に望むもの

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 それからの数日、悟はどこで話をするべきか悩んでいた。  きっと自分の出生に関わる話題になる。そして、基はそれを他人に知られたくないのかもしれない。だからひとりで抱えたのでは。  そう思うと、今この瞬間も基がつらい思いをしている気がした。いつから、どれだけのものを抱えていたのだろう。  先入観をもつべきではないと父親に諭されても、悟は考えることをやめられなかった。 「このへんじゃ、内緒話もできないからな」  顔見知りばかりで、聞かれたくない話ができる店も簡単には見つからない。かといって離れた場所へ出向くのもためらわれる。  話の内容次第で、自分がどんな状態になるのか想像できず不安なのだ。 「しかたない、乗りこむか」  基は数年前から、鞄屋の裏にある単身者向けのアパートに住んでいる。職人気質な父親との確執が深まり、言い争うことが増えたせいだ。  引っ越しを手伝ったが「今は足の踏み場もない状態」だと本人から聞いているので、その後は一度も入ったことがない。  でも、ふたりきりで話をするならそこしかないだろう。 「基が素直に話してくれればいいけどな」  前のように会わなくなって、頭に浮かぶのは基の顔ばかりだと気がついた。  他の人に向けるのと自分の前では、少しだけ笑顔が違うことにも。  そのくすぐったさと会えない寂しさは、ずっと自分のなかにあったはずなのに、自覚したとたん耐えられなくなっている。  明日、仕事が終わったら会いにいこう。逃げられないようにしないとな。  気持ちが決まり、悟はすぐに眠りについた。
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