本当に望むもの

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 翌日はどんよりとした曇り空だった。  薄暗い通りは歩く人も少なく、山一金物店も閉店時間にはさっさとシャッターをおろす。 「よし、行くか」  拒まれては元も子もないから、あらかじめ連絡はしていない。  基はまだ帰っていないだろうが、何時間でも待つつもりだ。鞄屋の前を避けるように遠回りして、アパートに向かった。  基が父親と険悪になってから、彼の両親とはなるべく会わないようにしている。自分の顔を見るとおばさんは悲しそうだし、おじさんは眉間にシワを寄せるからだ。 「なんで、こうなっちゃたかな……」  知らないうちにかけ違えたボタンを、向い側から見ている気分だが、それを直すのは本人でなければ意味がない。  悟自身も失敗しながら学んでいる途中だ。基にもそれを伝えたい。  基とは親の都合で一緒にいることが多かったから、必然的に仲良くなったと思っていた。だけど別々の時間が増え新しい人間関係を築いても、思い出を分かちあいたいのは基だった。  代わりはいない。  だから、自分は悲しさや悔しさから逃げだす以外の道を探したい。できれば一緒に。基はどうだろう。  単身者向けのアパートは、一棟に四戸だけの立方体みたいな建物だ。まるで巨人のサイコロみたいだなと、そぐわないことを思う。  悟は横一列に並んだドアの、右から二番目の前に立った。「んっ?」ドアポストに空室のステッカーが貼られている。  部屋を間違えたかと記憶を探るが、ちょうど隣人が帰ってきたので尋ねてみた。 「すいません! ここに住んでる背の高い男、越したんですか?」  コンビニ袋を下げた男は「あぁ、不動産屋が来てたからそうかもね。わからんけど」と、面倒くさそうに言って部屋のなかに消えた。  まさか……。スマートフォンを取り出して基に電話をかける。仕事中なら出ないかもしれないと思ったが、通話は強制的に切断された。  慌てて鞄屋に向かって走る。そこにいてほしいと願うが、それは叶わないだろうとも感じていた。
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