本当に望むもの

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「こんばんは。基、いますか?」  タイミングよく店を閉めようとしていたおばさんを見かけ、平静をよそおって声をかけた。表情とは反対に、心臓はバクバクとうるさい。 「あら、久しぶり。基ならアパートにいるはずよ」「あ、何号室でしたっけ……」「ふふっ、201。右から二番目のドアよ」  おばさんが何も知らないことだけがわかって、悟は礼を言って背中を向けた。  遅くなるはずだからと言って出かけたが、意気消沈して帰宅するはめになった。  なんとなく、そのまま自室に入るのは躊躇われてリビングに向かう。家族が顔をそろえていた。  最近は自分のことで心配ばかりかけている。悪いとは思うが、茜の仕事に支障はないのだろうかとよけいなことが気になった。  三人は息をつめて悟を見る。  いつもならまっさきに聞こえる、母親からの「おかえり」さえでてこない。何も話さないわけにはいかないが、どう伝えようかと迷った。  すると、ちらっと浮かんだ考えを見透かしたように「ほら、座って!」と茜が自分の隣をバンバン叩いた。 「おまえ、やっぱり元気すぎないか……」  こうなれば、知恵を借りよう。  悟は意を決して「基がいないんだ」と言った。
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