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悟は「これで小川の追求から逃れられる」と、心の中で幼なじみに手をあわせた。
「あ、基。おまえ、またフラフラしてんのか?」
話を中断させられた小川はそんなことを言いながら、妻の名前を聞くとそそくさと腰をあげた。
「ひでぇなー。まじめに働いてますよ。今日はたまたま休みなんです」
言われ慣れている基が笑いながらやり返す。このふたりは、顔を合わせるたびにこの調子だ。
「そうか、まぁ頑張れよ」
小川は産まれたときからふたりを知っているためか、三十二歳になっても子ども扱いしてくる。悟と基はそういうものだろうと受け入れているが、正直なところ煩わしいときもある。
じゃ、と皆に手をあげて小川が出ていくと、悟も店に戻るために立ちあがった。
「今夜、行けそう?」基はふたりと入れ違いにカウンターに腰掛ける。悟の仕事が終わったら飲みにいこうと誘っているのだ。最低でも週に一回は連れだって出かけている。
期待のこもった視線に、んっとだけ答えて喫茶店をあとにした。
通りを抜ける風に癖毛を揺らしながら、さっさと終わらせるぞと思う。
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