母と母と、母

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 思いだして笑いそうになるのに、いま隣に基がいないことを再確認してしまう。 「どうして俺に言ってくれなかったんでしょう」  基が夢を諦めたほんとうの理由。  その内容以上に、知らされなかったという事実が悔しかった。  悟はくちびるを噛みしめる。  誰よりも近くにいて、なんでも分かちあってきたつもりだった。それは自分勝手な思いあがりだったのだろうか。 「そうね。基は悟くんに憧れてた。だからこそかわいそうだと思われたくなかったのかも」  基の母親の言葉に、悟の母も肯いている。 「いい機会だから、悟が産まれた頃の話をしましょうか」「愛子のこと、悟くんにも知っててもらいたいし」  母親たちは、昔に戻ったように楽しげに話し始めた。  それは、脱線しては戻ったりを繰り返しながら、それでもなんとか目的地を目指して進んだ。  そして、泣いたり笑ったりと、感情の丘をいくつも越えるハードな行程となった。
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