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通りすがりの男
悟は当初の予定通り、露天商探しを優先させることにした。基の行方を探したい気持ちはあるが、戻ってくるという言葉を信じたい。
「ほんとに信じてるのか?」
胸のなかに、意地の悪い声が聞こえた。
「連絡がこなくなってすぐに会っていれば、こじれることもなかったはずだ。基はもう帰るつもりはないのかもな」
揶揄うような響きが悟を苛つかせる。だがこれは自分自身の声だ。
「あいつが離れないと、何を根拠にそう言える? いままで基に何を返してきた?」
声の指摘は的を得ている。
思い上がった自分は、基が与えてくれた居場所の大切さを顧みようとしなかった。その結果が今だ。
だが、そんな悟に父親が教えてくれた。
ヒトは間違うものだと。そしてやり直すために努力することや、助けが必要なら頼ってもいいのだとも。
その言葉を信じている。そして基の言葉も。
露天商に会ってどんな話ができるのかはわからない。「ただの自己満足だ」と心の声に笑われても、やらなければ結果はない。
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