通りすがりの男

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 調査会社の仕事は迅速で、名前も知らなかった男の所在は、依頼してほどなく判明した。  情けないが父親に同席してもらって報告を受ける。 「仕事も負担かけてるのにごめん」  そもそも自分が神社から逃げ帰らなければ、こんな手間をかけることもなかったのだ。それを思うと申しわけなさでいっぱいになるが、やはり一人で相対する勇気はない。  自分はこんなにも弱い人間だった。まるで自分自身に裏切られたような気分だ。 「該当すると思われる男性の名前は宮野覚(みやの さとる)と言います。組合に確認したところ、現在はここより西の方で出店しています」  表情まではっきりとわかる写真を見せられ確信する。  間違いない。あの日の男だ。  直近で出店する祭りの情報を確かめ、会いに行くことを決めた。  11月にはいり、短い秋の深まりを空気からも感じるようになっている。  あおぞら商店街でも今月中には年末恒例のライトアップの準備が整う。きらきらとした光の粒は、通りを幻想的な場所に塗り替えてくれるだろう。子どもの頃に感じた高揚感は何年経っても色褪せないものだ。  でも大好きな景色に基がいない。胸のなかを、ひときわ冷たい風が吹き抜けた。  
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