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交通整理をしている男が忙しくしている。慎重に目配せして誘導灯を振り、時には止め交互に車を流していた。申し訳ありませんと何度も言いながら頭を下げている。しかし狭い車道に大破した車が競りだしていて悲惨な状況に流れはままならなかった。
やっと目の前まで来て、そのまま流されると思いアクセルを踏み込んだ。しかし拓斗の前に交通整理の男が現れ、誘導灯を真横に構え立ち塞がった。憮然としている拓斗が目に入ったのか申し訳なさそうにし、頭を下げる男。あの男は何度頭を下げたんだろうかと思った。ハンドルを叩く。
「通せよ──」
睨みながらブレーキペダルを踏んだ。誘導灯を眺めながら拓斗は大破した車に目を向けた。ボンネットは迫り上がり、フロントガラスもクモの巣状に割れ、所々にガラス破片が飛び散っている。ドアは無理矢理こじ開けなければ開かないだろうと思うほど妙な形に折れ曲がっていた。
「悲惨だな。乗っていた人は無事だろうか?」
大破した車の現状を目の当たりにし、拓斗は冷静さを取り戻した。頭を下げられ誘導灯を振る係りに大変だなと同情し、軽く会釈をしてゆっくりと車を走らせ通り抜けた。
「待ってて」
口から言葉を吐きながらゆっくりとアクセルを踏み込み徐々にスピードを上げた。時計を見る。数十分の出来事が拓斗にはとっては気の遠くなるほど長い時間に感じられた。スムーズに車が走り景色が流れ出す。
「何も変わってない。あの時と……」
ふと思い出した。あの頃、高校生だった頃のことが込み上げてきた。
「父さん……俺は何か変わったかな?」
拓斗は車内で一人呟きアクセルを踏み込んだ。
──まだまだ話したいことがいっぱいあるんだ──
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