1 社会人一年生 美里

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『おかえりの店』  看板に書いてある文字を二度見して、店の扉を開ける。 「おかえりなさい!」  その途端、元気のいい声が響いて呆気に取られた。  当然と言ったように、友梨佳が答える。 「ただいまぁ! 今日は、2名でーす!」 「はいっ、おかえりなさいっ。今日も一日お疲れ様。こちらへどうぞ」  元気のいいお兄さんが優しく声をかけ、席まで案内してくれた。  黙って様子を伺っていると、店員のお兄さんが私にも声をかけてくれる。 「貴女も、一日、お疲れ様です。おかえりなさい」  思わず答えた。 「た、ただいま……」  答えながら、ホッとしている自分に気づいた。  人におかえりなさいと言われるのは、いいなぁと思う。  テーブル席もあるけれど、通されたのはカウンター席だった。  友梨佳と横並びに座る。 「アタシはハイボール。美里は?」 「私……、自家製梅酒、ロックで」  母も梅酒を漬けていたなぁ、と思いながら注文。 「最近肌荒れが酷くてさー、残業してるからちゃんとしたご飯を作ってなくて。コンビニで菓子パン買って済ませたりしてるから、それが原因かな」 「私も似たりよったり。胃の調子が少し悪いかも」  カウンターの中で、飲み物を用意していた板前さん風のご主人が、ボソッと言う。 「では、友梨佳さん、ニラ玉なんてどうかな。」  穏やかにふんわり言われたので、突然話しかけられても、聞いていて嫌な気持ちにはならない。 「卵とニラと言うのは相性がいいんですよ。ビタミンEやベータカロチンなど若返りの栄養素が摂れますし友梨佳さんにピッタリだと思いますよ」  ご主人の言葉を聞いて、友梨佳の口元もほころんだ。 「ハイボールにも合いそう。じゃあ、それで」  ご主人は笑顔で頷く。  そして私の方を見て、穏やかに言う。 「そちらのお嬢さん、胃腸が弱っている時は、あっさり系の物が食べやすいですよね。鱈のホイル蒸し和風餡掛けなんていかがですか?」  実家の母もホイル蒸し、よく作っていたなぁ、なんて懐かしい気持ちになった。  首を縦にふると、ご主人は優しい笑顔を浮かべた。 「少し待っていてくださいね。アツアツでお出しします」  友梨佳が私の方を向いてウインクする。 「ね? 良いお店でしょ。実家に帰ってきたような」  私は就職してから、しばらく帰っていない実家を思い、大きく頷いた。  
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