30人が本棚に入れています
本棚に追加
ご主人はとても手際がよく、さほど待たずに湯気の立ち上る料理が私たちの前にやって来た。
ニラ玉は卵をトロトロに仕上げてある。
まるでスクランブルエッグのように。
そこに少しだけ鶏ガラスープ仕立ての塩餡がトロリとかけられていて、喉越しも良さそうだった。
スプーンで掬って一口、ハフハフしながら味わった友梨佳は大きく頷いた。
「おいっしい!」
友梨佳の感想を聞いたご主人も嬉しそうだ。
私の前にやって来た膨らんだアルミホイル。
お箸で膨らんだ部分を丁寧に開けると、中から茸や出汁の芳香とともに大量の熱気が放出された。
鼻腔をくすぐる。
母のホイル蒸しと似ているようで、違う。
湯気を散らして進む箸。ふっくらと柔らかな鱈の切り身は優しい餡を纏って、艷やかに光る。
堪えきれずに、口に運ぶ。
アチチ。
ホフホフと口中で熱さと旨味を楽しむ。
ホロリと崩れる鱈の食感を感じて、思わず涙が出た。
「なに? やだ、そんなに熱かったの? 大丈夫?」
友梨佳が私の顔を覗き込む。
料理を飲み込んで、私は友梨佳に微笑んだ。
「私、今週末ただいまを言いに、実家に帰ろうと思う」
驚いた表情をする友梨佳。
カウンターの向こうで優しい笑顔を浮かべたご主人が頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!