1 社会人一年生 美里

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 ご主人はとても手際がよく、さほど待たずに湯気の立ち上る料理が私たちの前にやって来た。  ニラ玉は卵をトロトロに仕上げてある。  まるでスクランブルエッグのように。  そこに少しだけ鶏ガラスープ仕立ての塩餡がトロリとかけられていて、喉越しも良さそうだった。  スプーンで掬って一口、ハフハフしながら味わった友梨佳は大きく頷いた。 「おいっしい!」  友梨佳の感想を聞いたご主人も嬉しそうだ。  私の前にやって来た膨らんだアルミホイル。  お箸で膨らんだ部分を丁寧に開けると、中から茸や出汁の芳香とともに大量の熱気が放出された。  鼻腔をくすぐる。  母のホイル蒸しと似ているようで、違う。  湯気を散らして進む箸。ふっくらと柔らかな鱈の切り身は優しい餡を纏って、艷やかに光る。  堪えきれずに、口に運ぶ。  アチチ。  ホフホフと口中で熱さと旨味を楽しむ。  ホロリと崩れる鱈の食感を感じて、思わず涙が出た。 「なに? やだ、そんなに熱かったの? 大丈夫?」  友梨佳が私の顔を覗き込む。  料理を飲み込んで、私は友梨佳に微笑んだ。 「私、今週末ただいまを言いに、実家に帰ろうと思う」  驚いた表情をする友梨佳。  カウンターの向こうで優しい笑顔を浮かべたご主人が頷いた。  
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