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2 小学校五年生 春樹
「春樹ぃ〜、お母さんもう行くからね。夕飯はなんか買って食べて。お金はテーブルに置いておくから! 鍵忘れないように行きなさいよ!」
お母さんの声が、朝早くから階下でけたたましく響く。
寝ぼけ眼でベッドから起き上がり、窓の外を眺めた。
窓からは出かけて行くお母さんの背中が見えた。
階下に降りていくと、冷めたトーストと目玉焼き、カップスープの袋とパックのトマトジュースが置いてある。その脇には千円札。
大体これが毎日の朝ごはん。
朝早く出て、帰って来るのが遅いお母さんとは一緒にご飯を食べることがない。
家族なのに、おはようも、行ってきますも、ただいまも言わない。
でも、文句は言えないんだ。
だってお母さんは僕が眠っている内から出かけて、僕が眠った後に帰って来るから。
パンと目玉焼きをかじって、トマトジュースを飲むと大急ぎで支度して学校に行く。
「春樹ぃ! おはよ! 今日一緒に遊ばない? 学校終わったら俺んちこいよ」
仲良しの浩一が早速遊びに誘ってくる。
僕の家はお母さんが居ないから、友達を上げることがない。
いつも外で遊ぶか、たまに浩一の家に行く。
自分の家に呼べないのに、友達の家に行くこと、なんか違う気がするんだよな。
「外であそぼーぜ、サッカーしようよ」
「うぇぇ、勘弁してくれよ、こんな暑い日に。涼しい部屋でサッカーゲームしようぜ」
僕の意図は、浩一には伝わらない。
インドア派な浩一はなんのかんのと理由をつけて、自分の家に僕を誘う。
浩一は素直ないいヤツ。大好きな友だち。
だけど、いいのかな。
こっちばかり、遊びに行って。
学校が終わり、いったん家に帰る。
ガチャ。
誰もいない、普段通りの真っ暗な家。
いつも通りだけど、今日は少し淋しく感じた。
どうしようかな……。
悩んだ末に僕は、外に出て玄関に鍵をかけた。
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