【怪談】近づいてはいけない

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 これは私の従姉妹から聞いた話。  当時,小学生だった従姉妹が住んでいたのは住宅街にある会社の社宅で,三階建てのマンションのちょうど真ん中あたりの三階の部屋だった。  休みの日に従姉妹が部屋でベッドに横になりながらスマホをいじっていると,外から従姉妹の名前を呼ぶ声がした。  聞き覚えのない男の声だったが何度も従姉妹の名前を呼んでいたので,父親の知り合いが従姉妹の部屋がわからず自分の名前を呼んでいるのかもしれないと思いベランダに出ようとした。  その瞬間,後から力いっぱい腕を引っ張られてベッドに投げ飛ばされると,ベランダの手摺りの隙間から見たことのない真っ黒な男が部屋を覗き込むようにしているのが見えた。 「絶対に窓を開けちゃダメ!」  部屋の中央で鬼のような形相で仁王立ちしていた母親が,窓に向かって何かを唱えると男は悔しそうに顔を歪ませてゆっくりと消えていった。  ベランダの向こうは何もない三階の部屋で起こった出来事だったが,母親の険しい表情に何も聞けないまま従姉妹は怖くて泣き出してしまった。  その後しばらくして従姉妹たちは別のマンションに引っ越したが,外から名前を呼ばれたのはあれが最初で最後だったそうだ。
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