【怪談】石碑を囲むお地蔵さん

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 富士山の麓にある小さな神社の裏手に立入禁止の場所がある。  神社の裏から歩いてすぐの場所に少し開けたところがあり,そこには崩れて形を保っていない数百体のお地蔵さんと風化して角の取れた大きな石碑があり,古くから戦や飢饉で亡くなった人たちを弔う場所として神社によって管理されている。  大きな石碑にはそもそも誰かわからない無縁仏のほかに身寄りのないまま亡くなった人たちの名前が彫られているが,数百年前からある石碑は脆くなりところどころ崩れていた。  以前は誰でも入れる場所でボランティアが定期的に掃除をしていたのだが,ある日,地元の若者たちが肝試し動画をネットに公開したことで人が集まり石碑に落書きや悪質な悪戯をされるようになり立入禁止になった。  神社の入口に小さな手書きの「立入禁止」の看板が出ているが,毎年夏休みになると深夜遅く,山道に車が停められ石碑の前で肝試しをする若者が後を絶たなかった。  ある日,何人かの若者たちが石碑に自分と同じ名前を見つけたと嬉しそうにネットで動画を拡散すると,すぐに石碑に自分の名前を見つけると不幸になるという噂が拡がった。  確かに自分と同じ名前を見つけたと言ってネットではしゃいでいた若者たちは,その後ネットから消え去り,現実社会でも友人や知人たちが彼らの姿を見ることはなくなったという噂が拡まった。  そもそも風化して文字が読み取りにくくなった石碑に若者たちと同じ名前が本当にあったのか,夜中に木々に囲まれた暗い森のなかで自分の名前を見つけられたのかは誰にもわからないが……。  今でも夏になると石碑に自分の名前があるか肝試しにくる若者が後を絶たないが,神社の関係者はそれを止めるどころか,神社にかかわるボランティアたちが石碑のある奥に入りやすいように山道の雑草を刈り数百体のお地蔵さんがいる広場を整地している。
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