墓参り

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墓参り

山の中に人知れずあるお墓に、僕は毎年9月に墓参りに行く。 霊園ではなく、本当にぽつんとひとつだけあるお墓。 それをお墓だと知らない人はただの庭園だとでも思うかもしれない。 そのくらい花に囲まれているお墓なのだ。 手入れをしているのは、おそらくこのお墓に入っている人の孫だと思う。 会ったことはないけれど、孫がいると言う話は聞いたことがあるから。 花が好きな人で、自分の誕生日にはいつも花を送ってくれるんだと、彼は嬉しそうに教えてくれた。 彼は僕が幼かったころにお世話になった人。 その人は、帰る家のなかった僕に温かいご飯と布団を用意してくれた。 僕は母に会ったことがない。生きているのか死んでいるのかも知らない。 男手ひとつで僕を育ててくれた父は、ある時”新しい母”を連れてきた。 でもその人は子どもが嫌い……いや、僕のことが嫌いなようで、父がいない時は僕の存在なんて気づきもしないような態度をとった。 父との間に新しい子どもができたら、それはそれは可愛がっていた。 父のことは愛おしい人でも、血の繋がりがない子どものことは興味がなかったのだろう。 父も、泣いて泣いて寝て泣く新しい娘に手一杯になった。父の目にも僕は映らなくなった。 僕がいてもいなくても困らないんだろうと思った。 本当にあの家に僕の居場所がなくなったように感じて、僕はこっそり家を出た。 いなくなったことに気づいてもらえたのかも分からない。 僕はどこか遠くへ行ってしまいたくて、いっそこのまま目を覚まさなければいいのにと思って、家から随分と歩いた先にあった公園の藤棚の下で目を閉じた。
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