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『起きているか? 腹は空いていないか? 寝るなら布団で寝なさい』
そう声をかけてくれたのが彼だった。
その時すでに70は過ぎていたと思うけれど、背筋の伸びたイケオジと呼ばれるような部類の人だった。
知らない人にはついて行ってはいけません。なんてのはよく聞く話で。
だけどもう何もかもがどうでもよくなっていた僕は彼について行った。
彼は僕を本当の孫のように可愛がってくれて、愛情をくれた。
数年お世話になった彼の元から離れたのは、彼の家に孫が引っ越してくると聞いたからだった。
孫がいる話を聞いたのはその時が初めてだった。
息子がいると言う話は聞いたことがあったけれどそれだけ。彼の奥さんも亡くなっていたし、あまり彼は自分の話をしない人だったから。
その時に僕から聞いた。孫はどんな人なのかと。
孫のことを話してくれる彼は、とても嬉しそうで楽しそうだった。
その様子を見て、また僕がいらなくなるんだと思った。
父は僕にとても優しかった。そんな父でも僕より新しい娘を可愛がった。赤ちゃんの方が手がかかるけれど、それを考慮してもちっとも僕を見てくれなくなった。
僕と血の繋がりのない彼が僕を不要になったってちっともおかしくない。むしろ今まで僕に優しくしてくれたことの方がおかしかったんだ。
きっと一人暮らしで寂しかった穴を僕で埋めていただけに違いない。
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