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彼に何かを言われる前に彼の家を出た僕は、それでも彼のことが気になって時々は彼の様子を見に行った。お世話になったお礼にと、彼の誕生日には玄関にお菓子や花束や彼が好きそうな雑貨を置いてきたこともある。
まるで動物の死骸を届ける犬のようだなと自分でも思った。
それでも他にお礼を伝える方法を思いつかなかった。
そんな彼が亡くなったと知ったのは3年前。
正確な命日は知らないけれど9月にいなくなっていたから、勝手に9月を命日だと思って墓参りに来ている。
ここがお墓だと知っている理由は、彼の孫らしき人が花を供えているのを見たことがあったからだ。
彼がいなくなった家には、孫が1人で暮らしている。
僕は彼の孫には気づかれないように墓参りに来ている。
なんて……きっとずっと前から気づかれていたのだろう。
だから、目の前には彼の孫が立っているのだろうから。
「あなたが春彦さん、ですよね」
「……」
僕の名前を呼んだその人は、活発とは程遠い印象の人だった。失礼な言い方だけど、家に引きこもっていそうな人。
首元が緩い黒のシャツに、大きめの黒いカーディガン。黒のチノパン。黒い髪は寝ぐせなのかファッションなのかあちこちに毛先が跳ねていた。
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