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「祖父が、あなたがうちに来たら、あなたと話してみて欲しいと言っていました。今までは確証もなかったし、自信もなくて、話しかけられなかったんですけど……」
目の前の黒ずくめさんと目が合わない。ウロチョロする視線から人と話すのが苦手そうな印象を受けた。
「……彼の……お孫さんですか」
「はい」
それでも声はハキハキしていて聞き取りやすい。
むしろ僕の方がぼそぼそとこもった声で話している。
「どうして……」
どうして彼はそんなことを言ったのか。
その疑問を察したのか、彼は躊躇いがちに僕を見ながら口を開いた。
「本当だったら、おれと一緒に暮らす予定の孫だったから、って」
「……は?」
彼の孫は今目の前にいる人、ただ一人だけのはずだ。
確か僕より3つ年下のお孫さん。名前は……東馬だったか。
彼が自分の孫の話をしてくれた時に、愛おしそうに口にしていた名前だ。
羨ましく、妬ましく思ったことを今でも覚えている。
彼に名前を呼んでもらえるのは僕だけじゃないことを突き付けられたから。
同時に、僕もそんな風に呼ばれたかったから。
父と母に、呼ばれたかったから。
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