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「僕が……彼の孫なはずないでしょう。彼の孫はあなただけだと聞きました」
突き放すように言えば、彼は一瞬怯んだように見えた。
それでも彼は口を開く。苦しそうな表情で。
「おれは、両親を事故で亡くしました。他の親戚はおれを引き取るのを嫌がっているみたいで……。祖父だけがおれに『うちに来るか』と言ってくれました。その時に、こうも言われたんです。『うちに来るのは構わないが、その代わりお前に兄ができるぞ』って」
兄なわけないだろう。
僕は、彼とも彼の孫とも血の繋がりなんてないんだから。
「祖父の家は山の中だし、あまり遊ぶ場所もないイメージがあって……。でも、年の近い兄ができるなら、楽しそうだなって勝手に思っていました。……けど、ここに来たら祖父しかいなくて。祖父は、あなたがいなくなってからすごく心配そうで……」
僕と彼とは赤の他人だ。心配なんて、しなくていいのに。
「祖父の誕生日にあなたが花束を持ってきてくれたとき、祖父は泣いてました。『生きててよかった』って何度も言ってました」
しばらく一緒に暮らしたただの情だよ、そんなの。
きっと僕を拾ったのも、可哀そうだとか、そんな同情からだったんだろうし。
「祖父が亡くなる直前まで、祖父はあなたを忘れてなんていませんでした。『春彦に会ったら伝えてくれ』って、言伝を頼まれたんです」
そこで言葉が途切れた。
僕たちの間を風が通り過ぎる。
ゆっくりと口を開いた東馬さんは、彼からの伝言を口にした。
『愛しているよ、春彦。お前は誰が何と言おうと、私の孫だ』
頬に熱い雫が伝った。
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