地鬼の館

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地鬼の館

外から見ると、ごく普通の廃洋館にしか見えない。 だが、中からは強いアンデッドの気配を感じる。 立て付けの悪い扉を押し開け、中へ入る。 窓から入り込む光だけでは少々足りないので、術で自分たちのまわりを明るくして進む。 入ってすぐに2階へ続く階段があり、道を塞ぐシャンデリアを二人がかりで避けて上った。 2階には数体のアンデッドがいただけで、収穫は何もなかった。 それにしても、アレイが振るうマチェット… あれからは、強大な魔力を感じる。 最も、バサバサとアンデッドをなぎ倒せる時点で特殊だが。 洞窟での件といい、あのマチェットはアレイの心強い味方になってくれそうだ。 1階も探索してみたが、やはり何もない。 あちこちで荒らされた形跡が見られたので、やはり先に来た奴らに漁られていたらしい。 「何もないですね…」 アレイは収穫なしと思いこんでいるらしい。 だが、こういう時は意外と見落としがあるもんだ。 「いや、見落としてるだけかもしれないぞ?」 「えっ?」 「例えば、この出っぱりとか…」 白塗りの壁に、一ヶ所だけ黒く丸い出っぱりがある。 それを調べてみると… 「!」 思った通り、これは出っぱりにみせかけたドアノブだった。 「行こう」 ドアの向こうには下りの階段があった。 結構長かったが、降りきるとまた通路があり、まだまだ先は長いという事がわかった。 途中で脇道にそれたり小部屋に入ったりしてみたが、いずれにも何もなかった。 ただ、途中の部屋で妙な落書き?がされた壁を見つけた。 "始めに戦ありき 次に血飛沫ありき 戦を望めよ 血を求めよ 戦は本能なり 血は聖水なり 我ら戦を探し 血を欲する者なり 我ら死して尚 戦を求める者なり" 「これは…?」 「王典の僕が書いたものか。だが筆跡が新しい…」 その時、一匹のロトゥンが襲いかかってきた。 「[無名斬り]!」 アレイがロトゥンを一撃で斬り倒してくれた。 「おお…見事だ」 「ありがとうございます」 「てか、どこで技なんか身につけた?」 「身につけた訳ではありません。 術と同じように、なぜかその都度浮かんでくるんです」 「不思議な事もあるもんだな」 普通、技は力と経験と知恵を掛け合わせた末に生み出すものだが…。 術もそうだが、アレイは偶然閃いた、というよりは元から記憶のどこかにあったが忘れていたものを随時思い出している、という感じだ。アレイの前世は、熟練の魔騎士か何かだったのか? まだ覚醒してはいないようだが…もしかしたら、完全に力を覚醒させたアレイは俺より強いかもしれんな。 長い道を通り抜けた先には、壁には無数の棺が立てかけられ、床にはオレンジ色のカーペットが敷かれた大広間があった。 「ちょっと不気味ですね…」 大広間にはロトゥンどもがうろついていたので、遠くから弓で仕留めていく。 しばらくやってると、そのうち後ろから別動隊が近づいてくる。 アレイは狙撃に夢中で気づいていない。 まあ、これは新入りの狙撃手にはよくあることだ。 わざと敵を引き付け、ギリギリで切り捨てる。 それでようやく、アレイは気づく。 「後ろから来てたんですね…」 「狙撃手ならよくある事だ。でも同時に、一番注意しなきゃいけない事でもある。 狙撃の時は、必ず後ろにも気を配りながら戦えよ」 「わかりました」 今気づいたが、この部屋は明るい。光源は壁にある小さなランプしか見当たらないが、松明や術で灯りをつける必要がないくらいには明るい。 不思議だが特別気にするようなことではない。 それに俺は視力は5ある。多少暗くても狙撃に支障はない。 しばらく狙撃を続け、30体ほどいたロトゥンを10体程にまで減らせた。 このくらいならもう強引に突っ切れるだろう。 「そろそろ行くぞ」 「はい」 弓を収め、広間の奥の門目掛けて突っ走る。 途中で襲ってくるやつは片っ端から切り捨てる。 考えてみれば、アレイが一撃でロトゥンを切り捨てているのも、彼女が"普通"の水兵であると考えれば驚きだ。 アレイが生まれつき吸血鬼狩りの素質を持っている、という俺の見立ては正しかったようだ。 門にたどり着いたが、押しても引いても開かない。 「くそっ、ここで足止めか…!」 門を叩き、すがり付いた。 すると、アレイが… 「ちょっと待って下さい」 一歩前に出て、門の中央の丸い紋様に手をあてた。 紋様がボワッと光った。 「これで開くはずです。引いてみて下さい」 恐る恐る引くと開いた。 「何でわかったんだ?」 そう言いたくもなったが、今はもはやアレイに関する事で気にならない事の方が少ない。 これも追々知ることになるだろう、と思いながら、一つの関門を越える。
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