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塔
翌朝、俺達はすぐに塔へ向かった。
塔へは、1時間半ほどでついた。
塔のまわりには、大量のゾンビの無惨な死体が転がっていた。
ラカル達は、塔に入る前からけっこう派手にやったようだ。
「ちょっと待って下さい」
突然、アレイがそう言ったので立ち止まった。
「どうした?」
「なんか、嫌な予感がします。信じたくはないですが…とりあえず、見てみます」
「わかった」
アレイは目を閉じた。
塔の中を覗いてみるのかと思ったのだが、過去を見てみるという意味だったようだ。
「…」
アレイはしばらく黙っていたが、やがて目を開け、
「えっ?そんな…!」
と、悲鳴のような声をあげた。
「どうした?」
彼女の反応からして、何を見たのかはほぼわかったようなものだが、一応聞く。
「龍神さん…これ、見て下さい!」
アレイは、空中に映像を映し出した。
塔の最上階に鎮座する、大振りの斧を持った体格のいいゾンビ系のアンデッド。
おそらく、こいつがゼガラルだろうか。
そこへ、ラカル達一行がやってきた。
ゼガラルは部下たるゾンビ達を倒されたことに憤慨しつつも、ここまでこられた異人がいた事に関心し、部下を新たに呼び出して彼らの相手をした。
ラカル達は、途中までは割と押していた。
だが、そのうち僧侶が倒れると、そこから戦士、魔法使いと倒れ、やがて勇者も倒れてしまった。
「どうして…どうして…!彼らは、あんなに強かったのに…!」
アレイが嘆いているが、俺としては「まあ…予想通りだな」という感じだった。
正直、ラカル達の戦いぶりは悪くなかった。
戦士と勇者が肉薄して、僧侶が回復やサポートをし、魔法使いが遠隔攻撃。
一見上手い感じに連携が取れていて、大抵のやつとは張り合えるように思える。
だが、奴らはひとつ、重大な欠点があった。
そして、それを突かれた。
奴ら一行は、攻守共にバランスよく配慮していた。
そして回復は、一応戦士と勇者も回復アイテムを持ってはいたが、基本的には僧侶と魔法使いに任せていた。
これが問題だったのだ。
これまでの旅ではそれでよかったのかもしれないが、特定の役割を誰かに完全に任せるのは、高位のアンデッドとの戦いにおいてやってはいけない行為の一つ。
その理由は、至って簡単。
一つの役割に当たっている者がやられると、一気に全体の予測やプランが崩れ、結果的に総崩れになるからだ。
故に手慣れた奴は、例え部隊を組んでいても、誰かに特定の役割を任せっきりにはしない。
回復など、最低限自分でできるだけの用意はしておく。
不死者狩り…もとい吸血鬼狩りのパーティにおいては、突出して得意な役割があり、かつ相応の実力がある…という奴がいない限り、役割というのはほぼ名ばかりなのだ。
まあ、RPGだったらバランスが取れたチーム編成なんだろうが。
ドラ◯エとかF◯(ファ◯アー◯ムブレム)とかなら回復役、物理の削り役、魔法の削り役、壁役、と分ける意味もあるのだが…あいにくこれはゲームではないので、役割分担をする意味はあまりない。
むしろ、パーティの倒壊を招きかねない。
いずれにせよ、今のでラカル達が敗れたことがわかった。
大陸の皆さんには残念だが、勇者はここに死したのだ。
ならば、する事は一つ。
「アレイ、俺達も向かうぞ!」
俺はアレイを引っ張るようにして、塔を駆け上った。
道中の階をうろついていたゾンビは、全て倒していく。
こうしないと、後が怖いからだ。
さて、ものの数十分で塔の最上階についた。
階段を駆け上がり、奴の姿を目に捉える。
奴は、壁沿いにずらっと並んだゾンビの前で、まるで俺達が来る事をわかっていたかのように構えていた。
「やっと来たか…待っていたぞ、我らに逆らわんとする愚か者よ」
「悪かったな。すぐに登ってきてもよかったんだが、どうも先客がいたみたいなんでね。しばらく観戦させてもらったよ」
「そうであったか。だが、奴らはもうここにはおらんぞ」
「…!」
アレイは、弓を構えた。
「まあ、そうだろうな。ところで、お前の部下どもはそれだけか?」
「えっ…?」
アレイがちらりと俺を見てきたが、何も言わない。
すぐにわかることだからだ。
「ほう…わかるのか」
ゼガラルは、にやりと笑った。
「そりゃあな。…俺は吸血鬼狩りだぜ?わかんなくてどうする」
「吸血鬼狩り?…ならば余計に好都合だ。こやつらの実力のテスト相手にふさわしい!」
そして、奴は斧を高くかかげた。
すると、奴の後ろからふらふらと数体のゾンビが現れる。
それを見て、アレイは小さく悲鳴をあげた。
「…!なんてこと…!」
それは…まあ、もはや説明不要かもしれないが、先程俺達が見ていた、かつての勇者一行の成れの果てだった。
「やっぱりそうしたか」
「当然だ。こやつらは、私をあと数歩の所まで追い詰めた。だが、魔法を封じたらあっさり巻き返せた。所詮は低級の異人、儚いものよ。
だが、こやつらの実力は本物だ。故に、我が下僕…ことに王典様の下僕として、使ってやることにしたのだ。
…さあ、行け!この二人の命も奪って、同胞にしてやるのだ!」
勇者ラカル…いや、死勇者ラカルといったところか。
奴とその仲間は、かつて敵だった死人の命に従って動き、俺たちを襲ってきた。
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