戦士

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戦士

最初は戦士が向かってきた… 立派な斧を振り上げて。 試しに受け止めてみたが、なかなかの威力だ。 さらに、斧を受け止められるとすぐに体勢を立て直して薙ぎ払い、それを躱されると振り上げを放つ。 その動きは、磨かれた戦士のそれだった。 「龍神さん!」 アレイが心配してくれるが、生憎そんな事をされる必要はない。 というか、今アレイは自分の心配をせねばならない。 「アレイ…後ろだ!」 「えっ…!?」 間一髪、アレイは振り向いて、剣をマチェットで防いだ。 だが、受け止めただけで、そこからの動きがない。 「アレイ!」 「うぅ…!」 アレイは少しずつ押されている。 やはり、まだ経験の薄い彼女では、歴戦の戦士のアンデッドは相手に出来ないか。 だが、それで納得してしまう訳にはいかない。 吸血鬼狩りとして、彼女の指導者として、助言をする。 「片方の手を離して、魔弾を撃て!」 「…!?」 アレイは歯を食いしばって剣を押さえながら、右手で魔弾を打ち出した。 当たりはしなかったが、勇者は魔弾を避けてバク宙したので、結果的に膠着状態から抜け出せた。 「大丈夫か…!?」 俺は、戦士の斧撃を躱しながら言った。 「はい…!龍神さんは…!?」 「俺か?俺は…」 正直、地味にきつい。 刀ってのは、攻撃を受け止め続けるのには向いていない。 受け流すのは多少出来るが、それは剣や槍のように、一撃が比較的軽い武器の話。 斧のような一撃が重い武器相手では、分が悪い。 なので、躱すしかないのだが… 当然、それを続けると疲れてくる。 一方で、相手はそんなことお構い無しだ。 アンデッドには基本的に疲れという概念がないので、何時間でも全力でかかってくる。 従って、アンデッドとの戦いでは短期決戦が基本となる。 だが、ゾンビやレイスのような低級のものはともかく、高位のアンデッド相手だとそれもなかなか難しい。 故にアンデッド狩りや吸血鬼狩りには、並外れたスタミナと優れた戦闘の技量が必要なのだ。 「俺は大丈夫だ。すぐにこいつを始末する!」 一瞬、動きを止める。 すると、奴は好機とばかりに斧を振るってくる。 これをジャンプして躱しつつ、技を放つ。 「[雷月落とし]!」 強烈な電撃の力を込めた斬撃を打ち込む技だが、これを受けてもなお戦士は立ち上がってきた。 「さすがにタフだな…っ!」 喋ってたら、斧を投げてきた。 横に投げてきたので、体を思い切り仰け反らせて躱す。 奴の斧は両手で持つ両刃のもので、明らかに投げ斧ではない。 力も一級品のようだ。 真っ向から斬り合うのは分が悪いと判断し、魔導書を取り出す。 魔導書は一冊に一つの魔法の力が込められた書物で、これを持ってその魔法を唱えるという使い方をする。 威力は術に比べると少し劣るが、魔力をさして消費せずに魔法攻撃ができる。 「[エアロス]」 唱えたのは、風の中級魔法。 風の渦を呼び起こし、ダメージを与える。 風で相手を切り裂く…なんてことはできないが、それでも十分なダメージを与えられる。 戦士は、これで結構なダメージを受けたようだった。 なので、続けて闇の中級魔法も使う。 「[ネクロス]」 魔力で黒い球体を生成し、地面に染み込むように消え、相手の足元から手のような形で現れ、掴むようにして攻撃する魔法。 これも効いた。 アンデッドは闇に耐性がある者が少なくないが…こいつが元戦士であったことに救われたか。 また、戦士系種族は、魔法攻撃に弱い者が多い。 その事も、後押ししたかもしれない。 さらに、そこにアレイがトドメとばかりに魔導書をかざして叫んだ。 「[アイシクル]!」 アイシクルは確か、氷の中級魔法。 アレイにぴったりだ…というか、アレイ魔導書持ってたのか。 そして、戦士は事切れた。
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