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ドーイへ
このままドーイを探索したいとも思ったが、アレイと合流せねばならんので押し留めた。
町に真正の人間の傭兵がいたので、それとなく聞いてみたら、ドーイの地下洞窟には普通の方法では入れないとか言われた。
なんでも、元は町中に入り口があったのだが、王典が封印された後に閉じられたとのこと。
念には念を入れて、という意味でやられた事だったんだろうが、こっちとしては厄介な話だ。
最近この地方では地震が多いと聞いたが、それも王典と何かしらの関係がありそうだ。
それからこれも聞いた話だが、ドーイには地(じ)鬼(き)の館と呼ばれる屋敷があるそうだ。
ドーイ自体このあたりでは定番の探検スポットだが、その中でも地鬼の館は多少探検に慣れてきた者が行くところであり、外以上に異形やアンデッドが多いらしい。
宝なんかはもうほとんどないだろう、との事だ。
(探検…か)
俺も昔は冒険とか探検とかいうのに憧れた。
子供の頃は、たった一人の友達と一緒に、家の近くの森にあった廃墟に入ったり、崖の上に張られたフェンスの外側に張り付いて進んだりしたもんだ。
当時はとにかく、ロマンとスリルがある事をしたかった。
今となっては、もはや毎日を生きる事自体がスリルであり、冒険だが。
そういや、冒険者とか探究者とか言う種族の異人がいたっけ。
心が歪んでさえいなければ、それになれてたんだろうか。
俺とて好きで殺人鬼になった訳ではない。
幼き日に苛めやら虐待やらで心を壊されさえしなければ、今もロマンやスリルを追い求め続けていたのだろうか。
教会へいくと、アレイはもう来ていた。
それで話を聞いて、傭兵たちに絡まれた、というのはまあありそうな話だな、と納得できた。
けど、突然手に錫杖が現れて、そのまま訳のわからないまま奴らを撃退した、というのは驚いた。
まあ、アレイ自身が一番驚いただろうが。
「その錫杖はどうした?」
「あ、あります。目立つのでしまってたんです」
アレイが取り出したのは、白塗りの錫杖だった―
「龍神さん?」
声をかけられ、我に返った。
「あ、ごめんな。…その錫杖…」
「はい…」
「…見たことがある。400年くらい前だったか…
サンライトにいた陰陽師の…」
ほぼほぼ出かかっているが、最後が出てこない。
「エノ…エノ…」
「エノティア、ですか?」
「あ、それだそれだ。
その錫杖は、エノティア·ライリーの持ち物…
って、なんで知ってる?」
「?なぜでしょう…
なんか、なんかわかったんです」
「そうか。まあいい。
とにかく、その錫杖はエノティアが使ってた物だ、間違いなく。
なんで君がそれを?」
「わかりません…でも、これが手に現れた後は、自然と技を使って相手を牽制できたんです」
「へえ…」
遠い時代の記憶、ってか。
しかし、何千年も前の陰陽師の記憶が、突然よみがえるなんてことあるのか?
「私もまったく訳がわからないです…でも、これのおかげで助かったのは間違いありません」
「それはちょっと違うと思うな…」
「え?」
試しに陰陽師の技である「陰陽道」を使ってみてほしいと言ってみたが、使えないようだった。
えーと、これはつまりどういうことだ?
錫杖は陰陽師の特徴的な武器だが、その役目はあくまでも力を上手く制御すること。つまり、アレイは元から陰陽師の技を使えた、という事になる。
でも、本人は意識しては使えないらしい。これは、どういう事だ?
それに、アレイの祖先はシエラのはず。なんでエノティアの錫杖が出てきたんだ?
ダメだ、考えれば考えるほど訳がわからなくなる。
「あの…」
「いや、なんでもない。それより…」
そして、地鬼の館の事を話した。
アレイも、俺とおおよそ同意見だった。
アンデッドが他より多くいる、というのは色々と気になる。
もしかしたら、地下へ行く方法が隠されているかもしれない。
食事を済ませ、ドーイの廃都へ赴いた。
アレイが川魚の海鮮丼なるものを買っててくれたのでそれを食べたのだが、なかなか悪くなかった。
アレイはレークにいればいつでも魚料理が食べられますよと言ってきたが、別にレークに住むつもりはない。
活気がある町ってのは嫌いじゃないが…どうも、住むとなると落ち着かない。
さて、ドーイにはそれなりの数のゾンビ系と多少の異形がいたが、まあ大した事はなかった。
サクサク進む事ができたのには、間違いなくアレイが奮闘してくれたのもあるだろう。
そして、ついに地鬼の館についた…
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