猛る地維

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猛る地維

床から浮かび上がるように現れたのは… 大柄な体に、逞しい腕。 茶色の髪をした、凛々しい男。 (これが、八大再生者王典…) 彼は、私に視線を移してきた。 「…美しい娘だな。その顔、確かに星羅に似ている。 そして…あの忌々しい陰陽師にも似ている」 その深く、昏(くら)い瞳は、龍神さんにも似ていた。 「星羅の妹よ、こっちに来い」 王典はそう言って手を伸ばしてきた… 「おっと!」 龍神さんがその手を斬りつけ、王典は彼に視線を移した。 「この子は渡さないぜ」 「お前は…殺人鬼か」 王典は龍神さんを睨みながら話し出した。 「懐かしいな、俺もかつては殺人者だった。殺人鬼とも戦ったものだ。 してお前は、自分はどのくらい強いと思っている?」 「わからんな。けど、一応ここ1400年程、吸血鬼狩りのリーダーをやってるよ」 「ほう、吸血鬼狩り…か」 王典のいた頃に吸血鬼狩りは存在していなかったので、彼は吸血鬼狩りと言われてもわからないだろう。 「どんな集団なのかは知らんが…殺人鬼がリーダーという事は、大したものではなさそうだな」 「何を…!」 龍神さんではなく、私が声を上げていた。 すると王典は、私を関心の目で見てきた。 「なんだ、お前も吸血鬼狩りなのか?」 「いや、私は…」 「ああそうさ、この子も立派な吸血鬼狩りだ」 龍神さんが口を挟む。 「自覚はしてないようだが、この子は吸血鬼狩りの素質を持ってる。実際、この子はここにくるまでに何匹ものアンデッドを倒してきた。 そしてもちろん、お前の事も…」 「ほう?」 王典は冷たい笑いを浮かべた。 「俺を倒すと言うのか?…よかろう。強い奴であれば文句はない。 1400年生きる殺人鬼、そして星羅の妹たる水兵よ。 戦いに狂い、血を飛び散らせ… 躯(く)の全てを、投げ出してみろ…!」 まずは私が弓を構える。 そして… 「弓技 [光陰一矢]」 高速で光の力を宿す矢を撃ちこむ。 王典は、機敏に矢を避けた。 続けて、「[マルチボルト]」 一撃の威力は低いけど、瞬時に多数の矢を撃つ技を放つ。 さらにそのまま、 「弓技 [レイヴンバレット]」 鳥に見立てた高威力の矢を撃った。 通用してはいるみたいだけど、致命傷には至っていない。 「ほほう…」 王典は呟くように言った。 「弓、か。俺は弓使いは嫌いだ。 …[マインメテオ]」 私目掛けて、金属質の岩を飛ばしてきた。 幸い、当たる前に龍神さんが電撃を浴びせて破壊してくれた。 「そうか、そりゃ悪い事したな」 龍神さんは刀を抜き、 「[バイスブレード]」 技を唱えたようだけど、攻撃してはいない。補助系の技だろうか。 そしてその上で、 「刀技 [サウザンドゲイザー]」 途中で複数に分裂する斬撃を飛ばした。 分かれたうちの半分以上が命中し、王典の身体中から血が迸(ほとばし)った。 すると王典は、快感を感じているような笑みを浮かべた。 「へへぇ…いいなぁ…戦いはこうでなきゃな…!」 奴は武器である大振りのハンマーを取り出した。 そして、 「こっちも見せてやらないとな… [アビスインパクト]」 地面を叩き、不気味な紫の衝撃波を起こして攻撃してきた。 「はっ!」 龍神さんはジャンプ、私は宙返りをして回避。 さらに私達は空中で、 「[スコーピオンアロー]!」 「[モータルヴォイド]!」 別々の技を放った。 王典はそれをかわしつつ、 「[グランドスパイク]」 私達の着地地点に大量の岩の棘を出してきた。 「[ブレイクスリンガー]!」 太く重い矢を撃ちだして棘を破壊し、安全を確保して着地。 それを見るや、王典は龍神さん目掛けて飛びかかり、 「[タイラントヒット]」 ハンマーを激しく叩きつけた。 「…っ!」 ヒヤッとしたけど、龍神さんはバックダイブでこれを交わしていた。 「奥義 [蒼龍刀]」 刀を横にし、一気に払い抜ける。 さらに、彼は続けて、 「奥義 [暴れ花鳥風月]」 突き、切り下ろし、切り払い、切り返しの4段攻撃。 かなり強そうな技だったけど、王典は仰け反ってすらいない。 それどころか、奴は龍神さんに詰め寄り、胸ぐらを掴んでいた。 「こんなものでは俺は倒れんぞ?」 王典は龍神さんにアッパーをくらわせ、ふっ飛ばした。 「大丈夫ですか!?」 「心配ないさ…」 「…甘いな」 王典が呟いた。 「僅かなダメージを気にかける必要は全くない。戦いとは、傷つき合うものだ」 「…そうね。 確かに、心配する必要はなかったでしょうね」 そう答えると同時に、再びマルチボルトを撃つ。 「…懲りない奴だな」 王典は電光石火の早業で矢を全て弾き落とし、直後こちらに突っ込んできた。 咄嗟に防御結界を張って防いだけど、かなり食い込んできた。 まともに食らっていたら即死だったかもしれない。 「少しばかり急いでいるからな… お前には、しばらく黙っていてもらおう」 奴は巨大な岩の楔を作り出し、龍神さんを壁に釘付けにした。 「っ!」 王典はこれで邪魔者はいないな、と呟き、 「こっちへ来い、星羅の妹よ。どうしてもお前が必要なのだ」 私に手を伸ばしてきた。 (この手、お姉ちゃんと同じだわ) 体全体が冷たく、肌が変色している。 でも、生きているように喋り、何不自由なく動く。 エスケル(骨だけのアンデッド。人間界ではスケルトン?と呼ぶらしい)のように骨が剥き出しな訳でもなく、ゾンビのように腐臭を放っている訳でもない。 でも、間違いなく死んでいる。 「…」 呆然としているふりをして、立ちすくむ。 そして彼の手が私の手に触れる直前で、バックダイブをした。 王典の動きが一瞬止まった隙をつき、術を使う。 「氷法…」 と、この瞬間、ふと閃いた。 次の瞬間には、私はこう唱えていた。 「奥義 [スターライトブリザード]」
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