5人が本棚に入れています
本棚に追加
猛る地維
床から浮かび上がるように現れたのは…
大柄な体に、逞しい腕。
茶色の髪をした、凛々しい男。
(これが、八大再生者王典…)
彼は、私に視線を移してきた。
「…美しい娘だな。その顔、確かに星羅に似ている。
そして…あの忌々しい陰陽師にも似ている」
その深く、昏(くら)い瞳は、龍神さんにも似ていた。
「星羅の妹よ、こっちに来い」
王典はそう言って手を伸ばしてきた…
「おっと!」
龍神さんがその手を斬りつけ、王典は彼に視線を移した。
「この子は渡さないぜ」
「お前は…殺人鬼か」
王典は龍神さんを睨みながら話し出した。
「懐かしいな、俺もかつては殺人者だった。殺人鬼とも戦ったものだ。
してお前は、自分はどのくらい強いと思っている?」
「わからんな。けど、一応ここ1400年程、吸血鬼狩りのリーダーをやってるよ」
「ほう、吸血鬼狩り…か」
王典のいた頃に吸血鬼狩りは存在していなかったので、彼は吸血鬼狩りと言われてもわからないだろう。
「どんな集団なのかは知らんが…殺人鬼がリーダーという事は、大したものではなさそうだな」
「何を…!」
龍神さんではなく、私が声を上げていた。
すると王典は、私を関心の目で見てきた。
「なんだ、お前も吸血鬼狩りなのか?」
「いや、私は…」
「ああそうさ、この子も立派な吸血鬼狩りだ」
龍神さんが口を挟む。
「自覚はしてないようだが、この子は吸血鬼狩りの素質を持ってる。実際、この子はここにくるまでに何匹ものアンデッドを倒してきた。
そしてもちろん、お前の事も…」
「ほう?」
王典は冷たい笑いを浮かべた。
「俺を倒すと言うのか?…よかろう。強い奴であれば文句はない。
1400年生きる殺人鬼、そして星羅の妹たる水兵よ。
戦いに狂い、血を飛び散らせ…
躯(く)の全てを、投げ出してみろ…!」
まずは私が弓を構える。
そして…
「弓技 [光陰一矢]」
高速で光の力を宿す矢を撃ちこむ。
王典は、機敏に矢を避けた。
続けて、「[マルチボルト]」
一撃の威力は低いけど、瞬時に多数の矢を撃つ技を放つ。
さらにそのまま、
「弓技 [レイヴンバレット]」
鳥に見立てた高威力の矢を撃った。
通用してはいるみたいだけど、致命傷には至っていない。
「ほほう…」
王典は呟くように言った。
「弓、か。俺は弓使いは嫌いだ。
…[マインメテオ]」
私目掛けて、金属質の岩を飛ばしてきた。
幸い、当たる前に龍神さんが電撃を浴びせて破壊してくれた。
「そうか、そりゃ悪い事したな」
龍神さんは刀を抜き、
「[バイスブレード]」
技を唱えたようだけど、攻撃してはいない。補助系の技だろうか。
そしてその上で、
「刀技 [サウザンドゲイザー]」
途中で複数に分裂する斬撃を飛ばした。
分かれたうちの半分以上が命中し、王典の身体中から血が迸(ほとばし)った。
すると王典は、快感を感じているような笑みを浮かべた。
「へへぇ…いいなぁ…戦いはこうでなきゃな…!」
奴は武器である大振りのハンマーを取り出した。
そして、
「こっちも見せてやらないとな…
[アビスインパクト]」
地面を叩き、不気味な紫の衝撃波を起こして攻撃してきた。
「はっ!」
龍神さんはジャンプ、私は宙返りをして回避。
さらに私達は空中で、
「[スコーピオンアロー]!」
「[モータルヴォイド]!」
別々の技を放った。
王典はそれをかわしつつ、
「[グランドスパイク]」
私達の着地地点に大量の岩の棘を出してきた。
「[ブレイクスリンガー]!」
太く重い矢を撃ちだして棘を破壊し、安全を確保して着地。
それを見るや、王典は龍神さん目掛けて飛びかかり、
「[タイラントヒット]」
ハンマーを激しく叩きつけた。
「…っ!」
ヒヤッとしたけど、龍神さんはバックダイブでこれを交わしていた。
「奥義 [蒼龍刀]」
刀を横にし、一気に払い抜ける。
さらに、彼は続けて、
「奥義 [暴れ花鳥風月]」
突き、切り下ろし、切り払い、切り返しの4段攻撃。
かなり強そうな技だったけど、王典は仰け反ってすらいない。
それどころか、奴は龍神さんに詰め寄り、胸ぐらを掴んでいた。
「こんなものでは俺は倒れんぞ?」
王典は龍神さんにアッパーをくらわせ、ふっ飛ばした。
「大丈夫ですか!?」
「心配ないさ…」
「…甘いな」
王典が呟いた。
「僅かなダメージを気にかける必要は全くない。戦いとは、傷つき合うものだ」
「…そうね。
確かに、心配する必要はなかったでしょうね」
そう答えると同時に、再びマルチボルトを撃つ。
「…懲りない奴だな」
王典は電光石火の早業で矢を全て弾き落とし、直後こちらに突っ込んできた。
咄嗟に防御結界を張って防いだけど、かなり食い込んできた。
まともに食らっていたら即死だったかもしれない。
「少しばかり急いでいるからな…
お前には、しばらく黙っていてもらおう」
奴は巨大な岩の楔を作り出し、龍神さんを壁に釘付けにした。
「っ!」
王典はこれで邪魔者はいないな、と呟き、
「こっちへ来い、星羅の妹よ。どうしてもお前が必要なのだ」
私に手を伸ばしてきた。
(この手、お姉ちゃんと同じだわ)
体全体が冷たく、肌が変色している。
でも、生きているように喋り、何不自由なく動く。
エスケル(骨だけのアンデッド。人間界ではスケルトン?と呼ぶらしい)のように骨が剥き出しな訳でもなく、ゾンビのように腐臭を放っている訳でもない。
でも、間違いなく死んでいる。
「…」
呆然としているふりをして、立ちすくむ。
そして彼の手が私の手に触れる直前で、バックダイブをした。
王典の動きが一瞬止まった隙をつき、術を使う。
「氷法…」
と、この瞬間、ふと閃いた。
次の瞬間には、私はこう唱えていた。
「奥義 [スターライトブリザード]」
最初のコメントを投稿しよう!