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計画
「これでやることは一つ終わったな。あとは…」
龍神さんはどこかに電話をかけた。
「あー久しぶりだな…
ちょっと臨時の仕事が入ってな、手伝って欲しい。
悪いがカルトまで来てくれ。詳しい事は現地で話す」
そして電話を切り、
「行こう」
と言い出した。
「カルト、って言ってもわかんねえか…
取り敢えずついてこい」
途中で、城での事をいくつか話した。
別に大した意味はない。
ただ、信頼できる人に、抱え込んでいた事を吐露して、少しでも楽になりたかった…
それだけだ。
その中でも、月一で朝会が行われ、明日ちょうどそれがあるという事に彼は興味を持っているようだった。
そして私は、レークに帰ってきた。
「あ、ああ…」
思わず涙がこぼれた。
約3ヶ月ぶりに、帰ってきたのだ。
けど、今は嬉しさに浸っている場合じゃない。
「待ち合わせ場所に急ぐぞ」
待ち合わせ場所というのは、レークの郊外にある酒場だった。
店名は『カルト』。
(ここのことだったのね…)
私はお酒はあまり飲めないし、別に好きでもないから、酒場にはあまり来なかったのだけど…
「もう来てるんじゃねーかな…
お、いたいた」
龍神さんは、奥の席に座っている女性に近づいていく。
女性も気づいたようで、彼を見て、
「…何なの?」
と言ってきた。
「まあ焦んな。こっちの娘(こ)の事も含め、一杯やりながら話してやるよ」
そして私は女性のはす向かい、龍神さんの隣に座った。
「何を飲む?
…あ、酒大丈夫か?」
「はい。あまり強くはないですが」
「そうか。なら…
ティービールを2杯」
「緑ワイン一杯」
注文を取り終わると、
「それで?何なのよ?」
女性が龍神さんに話しかけた。
「それじゃ本題に入ろうか…
まずこの子はアレイ、見ての通り水兵だ」
「へえ…」
女性は鋭い目付きを私に向け、じっと見てきた。
「な、何ですか…?」
「…髪」
「え?」
「髪がだいぶ傷んでる。手入れしてないって事はまずないだろうから、あり得るとしたら栄養失調ね。あんた、ちょっと前まで栄養失調だったんじゃない?
水兵はみんな裕福だって聞いたことあるんだけど。
あんたは貧乏だったの?」
「いえ、私は…」
「ああそうだ。ついこの前まではひどい栄養失調だったよ」
龍神さんが口を挟んだ。
「この子は雪の中で倒れてた。それを助けたんだ。
俺も最初この子を見たとき、疑問に感じたよ。
なんせひどく痩せ細って骨が浮き出てたし、これは持ち上げた時にわかったんだが、体重も恐ろしく軽かった。どんな環境で暮らしたらこんなになるんだ、奴隷か何かだったのか、と思ってたが、話を聞いてわかった。
この子は、リアースに徴兵された水兵だった」
「リアースに?人員不足かしら?
…そうだとしても、なんで水兵なんか徴兵するのよ?」
「あそこは前の戦争で男の兵士を殆ど失っちまったからな、領土内の都市や村の女に徴兵をかけたんだろう。
女なら、暇潰しの相手もさせられるしな」
「自分で始めた戦争にジリ貧で負けて、兵士を死なせたからって関係ない奴らを引っ張ったわけ?
前々から思ってたけどさ、あそこの王何なの?」
「さあてなあ…」
と、ここで注文していたものがきた。
龍神さんはティービールを一口飲んだ。
「…と、ここからが本題だ。
この子は3ヶ月前に徴兵されたらしいが、敗戦したばかりで人員不足に苦しむ国に徴兵された者が、2ヶ月やそこらで帰ってこれる訳がない。
そして、仲間を置いてでも逃げ出してきた、脱走から数日後の時点で重度の栄養失調になっていたという事は?」
「…なるほどね。つまりこの子は脱走兵。
ただ、兵役でなく城での生活が苦痛で逃げ出した、と」
「脱走兵だなんて…」
「いや、いいんだ。寧ろそれが正解だったろうよ。
…さて、ここまで言えば、もう言いたい事はわかるよな?」
「そうね。
リアースを潰す、でしょ?」
「!?」
「大正解だ。
2度とこんな事が出来ないようにしてやろうぜ」
「ちょっと待って下さい!」
私は思わず叫んだ。
「ん?」
「何?」
「あそこにはまだ私の仲間、それに他の都市から連れてこられた人達もいるんです!
その人たちは、助けてあげて下さい!」
「そのつもりだ」
「え?」
「うちらが殺るのはあくまでも王とか貴族だけ。兵士には手を出さないわ。
あんたのお仲間も、その兵士の中にいるんでしょ?」
「はい…」
「なら心配無用ね。
それで、どうやって潜入するの?」
「プランはもう考えてある。だがそれには、お前の力が必要だ。
今さらだが、やるよな?」
「当然でしょ。国一つ潰すなんて、なかなか出来る事じゃないもの」
女性はそう言って、出されたばかりのワインをぐいと飲んだ。
「ようし…じゃ、シナリオを説明しようか」
そして、彼は自身の計画を話した。
「…と、こういう訳だ。
朔矢、やってくれるよな?」
「やらないって言ったらどうするの?
…まあどうせ暇だし、手伝ってやるわよ」
「よし。じゃ、作戦開始だ!」
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