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episode 90 それぞれの思惑
軍隊 入隊募集の広告が掲示板に貼られている。風が吹き付けると、ひらひら揺れて、不安定な画鋲が呆気なく外れて飛んでいった。広告は風に乗って、町の中を彷徨っていき、とうとう地面に落ちてしまった。
「もうそんな時期か」
踏みつけた広告を手にとって、トガニは砂埃を払った。ボストンバックが肩にずっしりと重たい。あとをついてくる足音を聞いて、首を巡らす。ヨニがスポーツウェアの姿で走ってきていた。
「感心するね。
自主トレーニングかい?」
トガニが呼びかけると、その場で足踏みをしながら「まあね」と笑顔で返した。それからゆっくり足踏みのペースを落としていくと、トガニと並ぶように歩き出した。
「どうだ、向こうは。
何ヶ月も帰れてないから、
何が起きているのかわからないんだ。」
「うーん…何から言えばいいのか分からないけど。
康介が大変そうだよ。」
「康介が?」
意外そうに顔をしかめたトガニに、ヨニはあっさり頷いた。
「日本人に会ったとか、なんとか。
相手がまた殺人容疑をかけられている人で…
うんぬんかんぬん…」
「お前の話の8割が分からないな。」
「だって…俺も人伝に聞いたから」
「そういうことか…」
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