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1 図書館と世界遺産
夏休みも終わりに近づいたころ、エアコンが壊れてとてもうちにいることができなくなって、たまたま涼みに来た図書館で私は彼を見た。その日は平日。たしか、火曜日だったと思う。
以前、平日昼間にたまたま図書館に来たときは、大人向けの本が置いてある場所にはお年寄りばかりで若い人なんていなかった。数年前までお世話になっていた、児童書コーナーは小さな子がたくさんいて少し騒がしいけれど、一般書の本棚、特に2F席はとても静かで、読書好きな私は本に集中することができて嬉しかったのでよく覚えている。
1Fの図書館総合カウンター前のゲートを抜けて、中央通路を進む。右手にガラス張りのエレベーター。
その向こうに階段。その日はライトノベルを物色しようと思っていたから、2FのYAコーナーに向かって、階段を上る。折り返しのない真っすぐな階段は上り切った先で左に折れる。左手に自動貸し出し機と2Fカウンター。この図書館の司書さんは殆ど女性だ。けれど、今日は珍しく若い男性の司書さんが座っている。
その人は私に気付いて、ふと、顔を上げると、静かな声でこんにちわ。と、言ってから、ふにゃり。と、笑った。優しそうな人だった。こちらもぺこり。と、頭を下げる。男の人は苦手だけれど、あの人なら探してほしい本があったら話しかけられそうだ。
会釈から顔をあげて周りを見回す。
今、私の後ろは階段。その向こうは図書館のある1F・2F部分と、その上の4F部分まで全部が大きな吹き抜けで、吹き抜けを囲むようにキャレル席と呼ばれる自習用の仕切り板付きの机がたくさんある。図書館内にはもう一か所階段を上がった正面側にも小さめの吹き抜けがあって、そちらにもキャレル席があるのだが、私は通称『月のパティオ』と呼ばれるそちらの席より、『山のパティオ』という名前の明るく大きな吹き抜けの席が好きだった。
今日は少し人が多い。夏休みだからだろうか。私と同じ高校生風の女の子が特に多い気がする。彼女たちは図書館だというのに、自習席の仕切り板を外してなにやらひそひそ囁き合っている。しかも、一組や二組じゃない。近くでイベントでもあったんだろうか。
ああ。やだな。
私は思う。
折角静かに読書をしたいと思って、友達を誘わずにきたのに、気が散りそうだ。
市民センターには交流スペースが結構たくさんあるのに、何故、図書館に来るんだろう。おしゃべりがしたいなら、サロンに行ってほしい。図書館は本を読む場所で、そもそも自習をする場所ですらない。図書館の本を使った学習なら別だけれど、そうでないなら読書の人に場所を譲ってほしい。市内の高校や中学がテスト期間に、友達とおしゃべりをしに来ているくせに、勉強してますよ。と、言い訳するみたいに埋まってしまう席を見るたびに私はため息を吐くのだった。
ただ、今、市内の高校でテスト期間のところがあるのだろうか。夏休み中なのに? そんなわけないよね。ただ、暑いから涼みに来ているだけ?
少しうんざりしながら、振り向いてそちら側に歩き出そうとした時だった。
そこに、その人がいた。
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