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あれ?
そこで、ふと、何かが頭をかすめた。
「は。マジでどけよ」
しかし、その中の一人の声のトーンが少し大きくなったから、考えていたことが、ざまあみろ。と、別の感情にとってかわられてしまった。
「空いてないなあ」
わざとらしく私は呟いた。
その恐ろしいくらいのイケメンの手前側の席が空いているのには最初から気付いていた。恐らく、彼を見つめる数組の女子高生たちは牽制しあっていてその席には座れないのだろう。近くにほかに空きスペースはない。恐らくこのあたりの混雑の原因は、目の前のイケメン男子だろうから、もっと、ずっと奥の方へ行けば空いているところもあるだろう。
けれど、私はあえて、そこを選んだのだ。
「うわ。座る気だよ」
「生ごみみたいな顔しといて、よく座れるよね」
「ブスなだけじゃなくて、勘違い。頭おかしくない?」
「ホント、死んでほしい」
四人は、口々に罵詈雑言を並べているけれど、別に気にしない。ただの負け犬の遠吠えだと分かる。本当は自分がここに座りたいくせに、勇気もないし、群れているから抜け駆けもできないんだろう。
大体。あの子たちは自分たちの会話が彼に聞こえているのに気付かないんだろうか。彼はイヤホンの類はつけていない。隣の私に聞こえているってことは全部まるっと聞こえているはず。
こんなに真剣に本を読んでいる人のそばであんなそれこそ生ごみみたいな会話していて恥ずかしくないのかと思う。私の顔が生ごみみたいでも彼には全く迷惑をかけてはいないけれど、彼女らの会話は間違いなく近くに座る殆どの人の迷惑になっていた。
まあ。いいか。
彼女らが座りたいけれど、座れない席に座って、しかも、彼女らの撮影の邪魔ができたことで、ある程度満足した私は荷物から先日ここで借りた本を取り出した。
なんにせよ、私は読書をしに来たのだ。別にイケメンを鑑賞しに来たわけでも、喧嘩をしに来たわけでもない。ただ、エアコンの効いた場所で好きな本を読みたいだけ。もう少し読めばこの本は終わる。そうしたら、次の巻を借りる予定だ。
だから、私はイヤホンを取り出して周りの音をシャットダウンして、本を読み始めた。
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