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2 何様
「あの」
女の子たちの会話に急に男の人の声が被った。途端に呼吸が再開される。再開されてはじめて、自分が息をしていなかったことに気付いた。
「会話はお静かにお願いできますか?」
その声はとくに特徴のない普通の声。けれど、落ち着いた静かな声だった。
「皆さん、集中しておられるので」
私に向けて言っているのではないと言うことは、すぐに分かる。恐る恐る顔を上げると、カウンターに座っていた司書さんが、周りにいるグループの女子たちに声をかけて回っていた。
「は? 他にもしゃべっているやついるじゃん」
私に暴言を吐いていたグループの一人が言った。やはり今見ても四人いるいる。たけど、奥の一人の顔は見えない。手前の三人の陰になっているからだ。
「ですから、皆さんにお願いしています」
明らかに年上にしかも、当たり前のルールを注意されたというのに、敬語すら使えない女子高生にそれでも、司書さんは丁寧に応対していた。あの声の主の真ん前に立って、その言葉を聞いて、気持ち悪くなったりしないんだろうか。もしかして、そんなふうになるのは、私だけ? と、心配になる。
「あいつが言ったんじゃね?」
中の一人が私の方を見る。奥の子だ。目が合う前に、怖くなって俯く。それから、『あれ? 陰になってたはず』と、思うけれど、確認できない。
嫌な感じがした。なんだか、見られるだけで気分が悪い。
「こちらの席は図書館の本を読んでいただくための席です。今日は少し混んでいるので、会話は3階のサロンでお願いします」
司書さんはす。と、私とその女子の間に立って視線を遮る。それだけで、少しだけ楽になった。少しだけ視線を上げると、その背中が見える。毅然とした対応。頼りなさそうな人だったけれど、すごく頼もしくて、大人なんだ。と、思う。
「はあ? そんなのうちらの勝手じゃん。でてけっての?」
「席なんて向こう側いっぱい空いてるじゃん」
「話しちゃだめなら、書いておけよ」
「こっちは、客だよ?」
キンキン。と、騒がしい声でその女の子たちは騒ぎ始めた。元々、周りの人たちは彼女らの会話がうるさいと迷惑顔だった。文句を言っていたなかったからと言って、許容していたわけではない。面倒なことに巻き込まれたくないから我慢していただけなのだ。いや、もしかしたら、あの司書さんに注意してほしいと願い出た人がいたのかもしれない。
とにかく、この騒ぎに知らん顔を決め込んでいることもできず、皆ちらちら。と、遠慮がちに動向を見守っていた。
イケメン君を見て、おしゃべりをしていたほかの女の子グループも、ひそひそ。と、何かを囁き合っている。
さすがにあれは、ヤバくない?
とか、小声で言っているのが聞こえた。
「図書館は……」
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