2 何様

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 三人?  私ははっとした。一人少ない。  いや、はじめから三人だった?  もう一人いたような気がする。  けれど、何故か顔も、声も思い出せない。 「あ……や。あの。静かに図書館の本を読んでくだされば問題ないんです。ただ。……その。おしゃべり……や。その、ほかの利用者さんの不快になるようなことは……」  不意に、困ったように司書さんが言った。さっきまでの毅然とした態度とはまったく違っていた。今度は、イケメンさんの視線から、彼女たちを隠すように、司書さんは彼と女子たちの間に立った。無意識なんだろうか。あんなふうに暴言を吐かれていたのにまるで、女の子たちを守っているみたいだ。 「ここは。すごく好きな場所だから、静かにしてほしい。司書さんに迷惑かけないで」  その司書さんの行動に、言い過ぎたと思ったのだろうか、イケメンさんが呟くように言った。彼にしてみれば、勝手に追いかけられてはいるのだけれど、自分を見て騒いでいる女子たちが迷惑をかけているのが許せなかったのかもしれない。 「……はい」  しゅんとして、女子たちが頷く。さすがにお目当てのイケメンさんに言われたら、頷くしかないだろう。  その反省したような様子に、イケメンさんは小さく一つため息をついて、同じ席に座った。 「図書館を利用してくださるのはとても。嬉しいです。だから、ほかの方のご迷惑にならないよう。静かに本を読んでください。それから、会話も、小さい声でなら。ただ、ほかの方の不快になられるようなお話はご遠慮ください」  慎重に言葉を選んで、司書さんが言う。聞いているだけでほんのりと温かくなるような優しい言い方だ。その言葉に、女の子三人組もほっとしたような表情になる。三人。三人だ。間違いなく三人。彼女たちのいる場所を確認しても、乱れている椅子は三つ。荷物を置いてある机の数も三つ。当たり前なことなのに釈然としない。  ちらり。と、窺ったイケメンさんの顔はさっきより柔らかいような気がした。ただ、殆ど表情がないからそれは、私の錯覚かもしれない。  私がそんなことを考えている前で、小さく『ごめんなさい』と、呟いて頭を下げて、そそくさと荷物をまとめて出て行こうとする女の子たちに、まるでこんなことなんてなんにもなかったかのような悪意のない笑顔で司書さんは、『バンドスコアもありますよ?』と、声をかけた。女の子のうちの一人がギターのようなケースを持っているのに気付いていたみたいだった。そんな何もなかったような彼の態度に、女の子たちは今度は顔を見合わせて、『ありがとうございます』と、答える。ただ、こんな騒ぎを起こして、周りの目が気になったのか、『また見せてもらいに来ます』と、言い残して去っていった。やっぱり、去っていく背中は三つだった。  そんなやりとりのあと、図書館司書さんはこちらを振り返った。 「お騒がせして申し訳ございませんでした」  私だけ。というわけではなかったのだと思う。その場にいた人を見回して彼は言った。それから、深く頭を下げる。
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