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食堂の片付けを終えて、休憩のため一度部屋に戻ろうとした時だった。広間のソファに座り、新聞を読んでいる人がいることに気付く。
そのまま素通りをしようとしたが、その人物がタイミング悪く新聞を畳んだため、慌てて頭を下げた。
「おはようございます」
顔を上げた時、相手が先程の男性だということはすぐにわかった。しかし一緒にいた女性の姿は見当たらない。緊張した様子で彼の前を通過しようとした七香だったが、視線を感じて更に心拍数が上がっていくのを感じる。同年代の男子に慣れていても、大学生の男性には免疫がなかったのだ。
「君、アルバイト?」
「えっと……そうです」
そう答えた瞬間、自分に何か不手際があったのではと心配になり、足を止めてドキドキしながら男性の方を振り返る。
「あのっ……な、何かありましたでしょうか……?」
「えっ、別に。去年はいなかったなって思っただけ。あっちのショートの子は毎年いるみたいだけど。中学生?」
「はいっ⁈ 高校生です!」
「あぁ、中学生じゃバイトは無理か」
七香は目を見開き、開いた口が塞がらなくなる。確かに大人っぽいタイプではないかもしれないが、流石に中学生と間違えるには無理があるだろう。
「ちゅ、中学生って……どう見たって高校生じゃないですか!」
「どこが?」
「どこがって……」
「ほら、そうやって答えられないところとか。なんか反応が幼いなと思って。さっきから俺たちのことチラチラ見てたよね」
「見ていません! それに高校生はこんなのが普通です。あなたが大人の女性といるから知らないだけです」
「ふーん、やっぱり見てたんだ」
「違っ……!」
図星だったので否定が出来なかった。というかわかっていて言っているのなら、そっちの方がタチが悪い気がした。
「従業員が客のこと詮索するの、良くないと思うけど」
「し、してません! 妄想しただけです! 何もないのならいいです。ではこれで失礼します!」
そう言い放つと、七香は受付カウンターの奥にある従業員の住居に向かうための扉を開けて外に出た。
なんなの一体ーー七香はイライラし、胃がムカムカしてきた。無愛想だし、失礼だし、少しでもカッコいいと思ったことが悔しかった。
これから三日間、あんな人の接客をしなきゃいけないなんて嫌すぎる。でも働くってそういうこと。ワガママは言っていられない。それでも収まらない怒りを唇を噛み締めて堪えると、自分の部屋まで駆け出した。
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