愛になんか堕ちない

プロローグ

　あれは高校二年生の夏休み。私にとって最悪の記憶として、今でも心に刻まれている。

　目で見たもの、耳で聞いたこと、唇に残る感触ーーそれら全てが私にトラウマを植え付けた。

　あの出来事で大人になったかって？　そんなわけないじゃない。むしろ、あんな大人にはなりたくないと心の底から思った。

　そう、あれは私にとっての＂教訓＂。危険な大人を煽ってはいけない、どうにもならない愛に溺れてはいけない、そしてそのどちらにも近付いてはいけない。平凡な人生こそ、平和な日々なのだと実感した。

　夏休みが終われば、この毒に侵された自分自身をデトックス出来る。ようやく元の生活に戻れるし、元の自分に戻れるーーでも現実はそうではなかった。

　植え付けられたトラウマは一向に消えることはなく、私を違う意味で大人にしてしまったのだ。